第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題(口演)

[O5] チーム医療・看護管理

[O5-3] ICUでの腹臥位療法実施後、多発褥瘡が発生した一例への多職種協働

○小島 啓人1、加藤 建吾1 (1. 公益社団法人地域医療振興協会横須賀市立うわまち病院)

Keywords:腹臥位療法、急性呼吸窮迫症候群、多職種協働、医療関連機器圧迫創傷

【背景】
近年、急性呼吸窮迫症候群(以下:ARDS)に対する人工呼吸療法による肺保護戦略が提唱されるとともに腹臥位療法の有効性が明らかになってきた。しかし、集中治療室(以下:ICU)での腹臥位療法は、挿管チューブや点滴ルートなど治療上必要となる医療機器や診療材料が多いため、様々な合併症のリスクが伴う。また、患者を安全に腹臥位にするためには、スタッフの一定水準以上の習熟度を要するという人員的な問題により実施に困難を伴う。今回、体外式膜型人工肺(VV-ECMO)や経口挿管人工呼吸器管理下においても酸素化の改善が得られなかった患者に対して、院内腹臥位療法プロトコル(以下:プロトコル)を活用した多職種での介入により、患者の状態改善と今後の看護介入方法への示唆が得られたため報告する。
【目的】
様々な医療機器を使用しているICU入室患者に対して、プロトコルを活用した腹臥位療法を実施し、本事例の考察と今後の介入方法への示唆を得る。
【方法】
研究方法:事例報告
【倫理的配慮】
所属施設の倫理審査委員会の規定に則り、以下の倫理的配慮を行なった。個人が特定されないよう匿名化し、研究上に必要な情報は慎重に吟味し不要な情報を可能な限り削除することで、倫理審査委員会からの承認を得て研究を実施した。
【患者紹介】
患者は80代男性。来院時SpO2=60%台であり、酸素投与を10L/minで行うがSpO2=80%台だったため、経口挿管人工呼吸器管理が必要な状態であった。重症肺炎・ARDSの診断のもと人工呼吸器による呼吸補助を行なったが、酸素化維持が困難なためVV-ECMOを導入しICUへ入室となった。ICU入室後も呼吸状態が改善されなかったため、筋弛緩薬を使用して20時間の腹臥位療法を実施した。腹臥位後は、血液ガスデータや胸部レントゲン撮影等を行い有効性を評価した。連日、全身状態を評価しつつ12〜20時間程度の腹臥位療法を実施した。実施時の人員は医師、理学療法士、看護師の計4~6名であった。
【結果】
腹臥位療法後徐々に呼吸状態が改善され、ICU入室6日目にVV-ECMOを離脱し、9日目に人工呼吸器を離脱した。一方、褥瘡予防のために高機能エアマットレスや予防的ドレッシング材を使用して腹臥位を実施していたが、右頬部と鼻翼部と口唇に医療関連機器圧迫創傷(以下:MDRPU)、右腸骨と恥骨結合部と両膝部に自重関連褥瘡を形成した。新たな褥瘡発生予防と発生部位へのケアのために皮膚・排泄ケア認定看護師に介入を依頼した。約3ヶ月間の入院期間を経て自宅へ独歩退院となった。
【考察】
腹臥位療法実施後、呼吸状態が改善しVV-ECMOと人工呼吸器を離脱して一般病棟へ転棟となった。この結果は、腹臥位療法がクリティカルケアの実践として有効であった可能性を示唆する。一方、腹臥位療法に伴う可能性のある複数の褥瘡が発生した。ICUは、集中治療に伴う医療機器の管理を行いつつ、褥瘡の予防など看護の基本的な全身のケアも同時並行で実施する必要がある。また、これらのケアの実施には看護師だけでなく、医師や療法士、専門看護師、認定看護師などの多職種の協働が不可欠である。本事例では、腹臥位療法実施前の関節可動域評価を理学療法士、呼吸状態の評価を米国呼吸療法士が担うとともに、褥瘡発生後は皮膚・排泄ケア認定看護師にチームへの介入を依頼した。これらの多職種と協働し、新たな褥瘡発生予防と発生した褥瘡に対するケアを行うとともにプロトコルを改訂した。多職種の介入を要する状況では専門分化した情報を集約し、協働のための調整を行うこともチーム医療における看護師の役割のひとつであった。