第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

Presentation information

一般演題(口演)

[O7] 看護教育・看護倫理

[O7-10] 臓器提供の意思表示に関する実態と関連要因の検討

○水落 彩香1、習田 明裕1 (1. 東京都立大学大学院人間健康科学研究科看護科学域)

Keywords:臓器提供、臓器移植、意思表示

【目的】日本における脳死下臓器提供は,本人の意思が不明な場合には,近親者の承諾で提供が行える“拡大された”オプト・イン方式を採用している.実際その多くが,脳死ドナーとなった本人の意思が分からずに,家族の判断によって行われている.脳死状態となる時は唐突に訪れることが多く,本人の意思が不明のまま代理意思決定を求める際の家族の苦悩,心的負担は図り知れない.生前の意思表示をもとに家族が判断をすることができれば,患者の意向を最優先に尊重したケアを実践する手段のひとつとなり,医療者にとっても患者,家族と共に行う最善のエンド・オブ・ライフケアに繋がるのではないかと考えられる.また,クリティカルケアに携わる看護師が,救命が最優先される中で,臓器提供の意思表示について死を前提としたものではなく,あくまでも患者の臓器提供の意思表示を支えることが患者とその家族のそばに寄り添う権利擁護者としての役割ではないかと考えられる.そこで,本研究の目的は臓器提供意思表示に関する実態と関連要因を検討し,明らかにすることである.

【方法】自動車教習所に通所し,運転免許証の取得を目的としている利用者を対象に全53問の無記名自記式質問紙調査を行った.分析は,各設問の基本統計量の記述統計の算出,【臓器提供の意思表示】を従属変数とした単変量解析,関連項目の因子分析,関連要因の検討 の順で行った.なお倫理的配慮として,研究諾否によって運転免許講習並びに運転免許取得等に影響はなく不利益を被らないことを説明した.また本研究は,所属大学研究倫理委員会において審査を受け,承認を得てから実施した.

【結果】自動車教習所3施設に配布し,228人(回収率87.7%)から回答が得られ,1部を無効回答とした227人(有効回答率99.6%)を分析対象とした.臓器提供の意思表示の方法は,78.9%が既知だったが,実際に意思表示を記入している人は11.6%であった.しかし,運転免許証を取得した後は60.4%が意思表示をすると回答した.【臓器提供の意思表示】を従属変数,『個人属性』『意思表示に対する考え方』『臓器移植医療に対する考え方』『医療に対する信頼性』『脳死に対する考え方』『死生観』のカテゴリーの各設問を独立変数として単変量解析を行った結果,3つのカテゴリーで関連が見られた.関連があった項目と仮説をもとに探索的因子分析を行ったところ,《臓器移植医療に対する肯定的態度》《臓器移植医療に対する積極的関心》《意思を表明することへの不安》の3因子が抽出された.3因子と有意な関連があった質的データの「周囲に臓器提供の意思表示をしている人はいるか」の4変数を説明変数としカテゴリカル回帰分析を行った結果,分散の30.5%が説明された.《臓器移植医療に対する積極的関心》(β=.247, p<.001),《意思を表明することへの不安》(β=-.414, p<.001),「周囲に臓器提供の意思表示をしている人はいるか」(β=.171, p<.01)と関連が見られ,《臓器移植医療に対する肯定的態度》(β=.114, n.s.)のみ関連が見られなかった.

【考察】対象者の78.9%が臓器提供の意思表示の方法を知っているにも関わらず,そのうちの約70%が自らの意思表示をしていなかった.一方,自らの意思を考える機会を設け,一人ではなく自分の身近な人と共に考える時間をつくることが意思表示と関連することが示された.運転免許証の取得は臓器提供の意思表示について考える契機となり,“臓器提供したい,もしくはしたくない”という意識が,“臓器提供の意思表示をする”という行動へ移せるきっかけになることが示唆された.