第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題(口演)

[O7] 看護教育・看護倫理

[O7-9] PICUにおける終末期患者の援助に対する看護師の葛藤と対処

○中根 梨加1 (1. 東京都立小児総合医療センター)

Keywords:PICU、終末期患者、看護師の葛藤、対処

Ⅰ はじめに
 A病院PICUでは、集中治療から終末期医療への転換が考えられる患者に対し、医師と看護師が合同カンファレンスを開いて情報共有を行っている。しかしそれでも葛藤を抱え援助に当たることもあり、それぞれが抱える葛藤内容と対処方法を明らかにしたいと考えた。
 先行研究では終末期医療へと転換した患者・家族との関りの中で看護師が抱く葛藤の概要は明らかになっているが、具体的な葛藤と対処方法は不明である。
 
Ⅱ 研究の目的
 PICUの看護師が終末期患者の援助に対して抱く葛藤と対処方法を明らかにする。

Ⅲ 研究方法
 2019年8~9月、A病院PICUで終末期にある患者を受け持った際に葛藤を経験したことのある、PICUクリニカルラダーⅢ以上(実務経験3年以上)である者10名に半構造的面接を行ない、質的帰納的に分析を行った。面接内容から逐語録を作成し、「終末期にある患者に対し看護師が抱いた葛藤」と「葛藤に対する対処方法」を抽出してコード化し、サブカテゴリ、カテゴリへと抽象化した。カテゴリ間の関係を検討し図式化した。

Ⅳ 倫理的配慮
 本研究はA病院倫理委員会の承認を得て実施した。

Ⅴ 結果
1.終末期患者の援助に対する看護師の葛藤
 8つの[サブカテゴリ]が抽出され、それらは3つの【カテゴリ】にまとめられた。
(1)【子どもへの看護ケアが十分に行えないこと】
 このカテゴリには[子どもに看護ケアを優先したいが、集中治療を優先しなければならないこと][子どもの状況から終末期を考慮する時期と考えるが、医師が治療を提案していること]の2つのサブカテゴリが含まれる。
(2)【子どもへの意思確認が十分に行えないこと】
 このカテゴリには[子どもの意思確認をしないで、集中治療を行わなければならないこと][子どもに本当のことを伝えなければと思うのに、主治医と家族の意向で伝えられないこと]の2つのサブカテゴリが含まれる。
(3)【子どもの意向を十分に尊重しづらいこと】
 このカテゴリには[子どもにとっては無益だと思うが、家族の治療に対する意思決定を支持しなければならないこと]などの4つのサブカテゴリが含まれる。
2.葛藤に対する対処
 5つの[サブカテゴリ]が抽出され、それらは2つの【カテゴリ】にまとめられた。   
(1)【自分から周りにアプローチをする】
 このカテゴリには[医師へ今後の方針を確認する]などの3つのサブカテゴリが含まれる。
(2)【自分の気持ちをコントロールする】
 このカテゴリには[子どもの経過を振り返る][時間の経過を待つ]の2つのサブカテゴリが含まれる。

Ⅵ 考察
1.他職種・他組織との関わりで感じる葛藤
 医師は客観的なデータ等から終末期医療の実施を判断するのに対し、看護師は子どものQOL等を優先して終末期医療を考える。そのため、終末期への移行が考えられ始めた段階から医療者の意思統一が必要と考える。
 一般病棟から転入した子どもの場合、十分な説明が行われないまま治療が行われていることが葛藤の要因になっている。子どもが意思決定できるように、病棟間で情報共有することが必要と考える。
2.家族との関わりで感じる葛藤
 家族は効果を期待して治療を希望するため、看護師は子どもの状態と家族の意思決定のギャップに葛藤する。看護師は、同じような葛藤を体験した者と情報共有し、子どもと家族へ対応していくことが必要と考える。
3.葛藤への対処と支援
 日頃から他職種・他組織と情報共有することは、お互いの考えを理解する上で有効な対処方略になると考える。また、看護師は葛藤の原因を認識することで、物事の捉え方を変化させ、新たな対処方法を模索していくことができると考える。