第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題(口演)

[O9] 鎮痛・麻酔

[O9-4] ICUにおける人工呼吸患者の精神的苦痛を緩和する看護実践

○小倉 久美子1、山田 聡子2、中島 佳緒里2 (1. 一宮研伸大学看護学部、2. 日本赤十字豊田看護大学)

Keywords:人工呼吸患者、精神的苦痛、看護実践

【目的】本研究は、ICU(Intensive Care Unit)における人工呼吸中の患者(以下、人工呼吸患者)への精神的苦痛を緩和する看護実践に対する看護師の認識を明らかにすることである。人工呼吸患者は、モニター画面から絶えず光が発し24時間医療機器の音が響くという閉鎖的なICU環境に置かれ、恐怖心や孤独感を抱き精神的苦痛が大きいといわれている。しかし、身体的苦痛に対する薬理学的介入の実証的研究は散見されるが、精神的苦痛に対する看護実践の研究蓄積は十分とはいえない。そこで、人工呼吸患者のニーズに応える看護実践を探求するうえにおいて、有益な一次資料になると考え、精神的苦痛を緩和する看護実践に着目した。
【方法】参加観察法及び面接法による質的記述的研究デザインである。研究協力施設は、中京圏の2施設を選定し、2019年10月~12月にデータを収集した。研究対象は、患者の全体像を把握する能力をもつ中堅レベル以上の看護師及び認定看護師を条件に、各施設3名とした。データ収集方法について参加観察は、観察者としての参加者の立場をとりインタビュー内容を解釈する上において、看護実践の現象を適切に捉えるための資料とした。面接は、精神的苦痛を緩和する看護実践に関する看護師の考え、判断、実践内容を視点にインタビューガイドを作成し、30分1回の実施とした。分析方法は、研究参加者にフィードバックしデータの信用性を高め、言葉の意味に注視しながらコードを作成し、類似性に沿って分類した。本研究は、研究者所属大学及び協力施設倫理委員会の承認を得た上で実施した。対象者の選定を看護師長に委ねており、上下関係による強制力が働かないよう、看護師長に文書および口頭で説明を行い、対象者が直接、研究者宛てに同意書を送付するよう配慮した。
【結果】看護師6名のICU経験年数は4~16年であった。逐語録から191コードを抽出し、28サブカテゴリ、8カテゴリを導き出した。文中のカテゴリを〚〛で示す。精神的苦痛を緩和する看護実践に対する看護師の認識は、患者を二の次にしないよう、その人に合わせた1日のスケージュールを考え、家族との関わりを大切にした〚患者を置き去りにせず心を配る〛という思いやり尊重する姿勢が基盤にあった。看護師は、孤独感や気管挿管に対する苦痛緩和の重要性を考えるなど〚非日常的な環境や侵襲的な処置から生じる患者の苦痛・不安を理解〛し〚意思の疎中が図れない患者の感情・ニーズを理解〛していた。そして、表情や動作、生体情報から〚患者の苦痛評価〛を行い、〚患者の苦痛を引き出す非言語的コミュニケーション〛を用いて思いを推測し、おかれている現状を説明することや、患者自身で確かめる方法など〚患者の不安を和らげ、落ち着いて過ごせるケアの実践〛、〚患者の苦痛緩和・回復を促すケアの実践〛、〚患者に安心感を与えるケアの実践〛の必要性を認識していた。
【考察】人工呼吸患者にとってコミュニケーションの障壁は、多大なストレスとなる精神的苦痛であることから、看護師は発声が制限された人工呼吸患者が発信するメッセージを様々な方法や機会を活用して読み取る実践をしていた。そして、メッセージが理解できない時は申し訳ない気持ちになり、患者の思いを共有できると一緒に喜び、常に意思の疎通が図れない苦痛を考え模索している様相が伺えた。また、非日常のICU環境のなかで、侵襲的な治療を受け、安楽が阻害された療養生活を過ごす人工呼吸患者の苦しみを理解し、人工呼吸患者のニーズに応えるよう、心が癒され安心感を与える看護実践を追求していた。