第17回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題

[O3] せん妄ケア

[O3-04] 心臓血管外科術後患者の多臓器障害の重症度とせん妄の関連

○小林 友也1、石塚 悠介1、岸田 啓佑1、齋藤 真由1 (1. 松江赤十字病院 看護部)

キーワード:せん妄、多臓器障害

【目的】集中治療領域では心・血管系、脳神経系等の術後せん妄が多く、心疾患患者はせん妄要因であるが1)、ICUでの臓器別のスコア化された多臓器障害とせん妄の関連は報告されていない。本研究では特に侵襲が高い心臓血管外科開心術後のICU入室患者の多臓器障害重症度とせん妄症状の関連を明らかにすることを目的とした。
【方法】2019年1月~2020年3月に研究対象病院で心臓血管外科術後ICU入室患者68人を対象とした。せん妄リスク因子16項目と、ICU入室中のせん妄評価としてCAM-ICU評価(評価不可は除外)、SOFA scoreデータを電子カルテから2次利用した。せん妄の有無とせん妄リスク因子の関連はχ2乗検定、せん妄の有無とSOFA scoreの関連はt検定を用い、有意確率5%未満とした。分析にはExcel 2013を用いた。倫理的配慮では研究対象病院看護研究倫理委員会の審査承認後研究を開始した。病院ホームページ上に研究内容を公開し情報利用の拒否が可能なことを保証した。
【結果】ICU入室中の死亡退院を除く66人を対象とした。平均年齢71.0±8.4歳、男性44人、女性22人、ICU平均入室日数4.7±1.3日であった。せん妄発症はあり35人、なし31人で、あり群のうち1病日目せん妄発症は22人、2病日目10人、3病日目以降は3人だった。せん妄の有無とせん妄リスク因子では性別、年齢、睡眠導入剤使用、鎮静剤使用、疼痛等では関連はなかったが、ICU入室期間5日以上、絶食期間3日以上、挿管期間16時間以上の3項目で有意差を認めた(p<.05)。SOFA score総得点は1病日目せん妄発症の有無で有意差はなかったが、2病日目発症ではあり群が有意に高かった(p<.05)。臓器別では1病日目発症で〈循環〉、2病日目発症で〈凝固〉、〈脳〉、〈腎〉で有意差を認めた(p<.05)。
【考察】入室期間、絶食期間、挿管期間が長期化した患者にせん妄発症が多くみられ、いずれも術後経過の重症度により長期化する因子であると考えられた。せん妄発症日は1、2病日目で全体の91%を占め、先行研究と同様、術後早期にせん妄を発症しやすいことが明らかとなった。心臓血管外科手術は高侵襲であり、様々な要因から循環動態が変動しやすくSOFA scoreは高得点となる。手術侵襲度は循環動態に大きく影響を与え、1病日目の〈循環〉に最も表されると考えられる。〈凝固〉では2病日目のせん妄発症で得点が高く、血小板減少の遷延が関連していた。原因には出血やDICが挙げられ、術侵襲に加え感染など術後の2次的な身体状態がせん妄発症に関連していると考えられた。また、意識レベルで評価される〈脳〉は鎮静状況も評価に影響するため、術直後は高得点となりやすい。2病日目以降も遷延する意識レベル低下は、より身体状態を反映しせん妄発症と関連があると考えられた。開心術ではAKIのリスクが高く、さらに循環動態が不安定で腎血流を十分に保てないことも腎機能に影響を与えるため、手術侵襲とそれに伴う循環動態も〈腎〉に反映していると考えられた。看護職は特に臓器別SOFA scoreを重症度評価だけでなくせん妄アセスメントにも活用することで、せん妄を早期に予期し予防的ケアを実践できると考える。また、医師、看護師をはじめ多職種がSOFA scoreに目を向け、日々のスコアから身体面とせん妄の経過を関連付けて捉えることで、身体管理を行う治療、看護と連動させた質の高いせん妄ケアを提供できると考える。
【結論】2病日目のせん妄発症者はSOFA scoreが有意に高かった。臓器別では1病日目で循環、2病日目で凝固、脳、腎の臓器障害がせん妄発症と関連していた。

山田宇以:せん妄の最近の知見と現状,Medical Alliance,1(2),112-118,2015.