10:14 AM - 10:28 AM
[O1-02] 集中治療室における看護師たちの実践 −ともに働く空間に着目して−
Keywords:協働実践、現象学的研究、参加観察
【目的】協働実践の実際は、複数の医療者が状況に応じて関わる文脈を持った出来事である。本研究では、ともに働く空間に着目し、その都度編成される看護師たちの実践を明らかにすることを目的とした。
【方法】研究デザインは現象学的研究とした。調査方法は、救命救急センターで15年以上の経験をもつ看護師でもある研究者が、参加観察および非構造化面接を実施した。本稿では、フロアーの構造や勤務開始時に集まる丸テーブルでの看護師たちの何気ないやりとりや立ち位置を記述した。なお本研究は2018年度首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会と研究対象施設の研究倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】丸テーブルは、集中治療室におけるナースステーションを意味しており、勤務開始時に全員が集まる場所であった。丸テーブルの先はオープンフロアーとなっているため、そこに立っているだけで患者の状態が目に入った。調査では、申し送り前から丸テーブルにいる複数人の看護師たちのやり取りが見られた。1人の看護師が、フロアーにいる患者の1人を見ながら「昨日いた人-」と声を発した。それに対してその場にいる複数の看護師たちは、昨日の情報、それに対する判断、また過去の経験の想起といった様々な種類の会話が次々と生まれ、患者の理解が広がった。さらに1人の看護師の質問に看護師たちが即座に応答したことは、その患者に対して看護師たちが関心を持っていたためと捉えられた。また丸テーブルでの看護師たちの立ち位置に着目した。時間になっても丸テーブルにいない看護師に気づき心配していた。 師長の立ち位置は毎回同じで、他のメンバーにも暗黙に了解されていた。リーダー、メンバーは丸テーブルの近くにいたが、フリー業務者や応援勤務者は離れていることがあった。師長の「30分ですよー」という言葉が、申し送りの開始を示していた。丸テーブルからフロアーの方に振り返ると、深夜のリーダー看護師がフロアーからやって来て、夜間帯の申し送りが始まった。丸テーブルでの看護師の立ち位置や行動によって、お互いのその日の役割や馴染み具合を習慣的に理解していると捉えられた。
【考察】原(2010)の研究によると、ナースステーションにおける看護チームの相互作用は、ほとんどが2人で構成され、意見交換は少なく情報交換が中心であるとした。それに対して本研究においては、申し送り前から複数の看護師が何気ないやり取りにより、情報交換だけでなく、意見交換もする場となっていることが明らかになり、新たな知見が見出された。また集中治療室における外傷患者の転帰とベッドの配置についての研究(Pettit, Wood, Lieber, & O’Mara, 2014)によると、有意差は見られなかったものの、集中治療室の構造とベッドの配置が患者の転機に影響すると看護師が捉えていることを示している。本研究においては、ナースステーションから見えるベッドの位置が看護師たちの会話を生み出し、患者の理解を深めたことは明らかであった。これは集中治療室の空間構造を検討する上での一示唆となったと考える。 さらに習慣化された暗黙の了解により、言葉に出さずとも実践が営まれていることが明らかとなった。これはメルロ=ポンティ(1945/1967)の言葉である、我々の身体は、目に見えない「習慣的身体」の層が、人の行動を支えていることを表している。
【結論】看護師たちの協働実践は、患者の今の状態が見える集中治療室の場の構造により、患者に関心が向かうことから編成されていた。また看護師たちがともに居合わせることが、病棟全体としての協働実践の下地となっていた。
【方法】研究デザインは現象学的研究とした。調査方法は、救命救急センターで15年以上の経験をもつ看護師でもある研究者が、参加観察および非構造化面接を実施した。本稿では、フロアーの構造や勤務開始時に集まる丸テーブルでの看護師たちの何気ないやりとりや立ち位置を記述した。なお本研究は2018年度首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会と研究対象施設の研究倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】丸テーブルは、集中治療室におけるナースステーションを意味しており、勤務開始時に全員が集まる場所であった。丸テーブルの先はオープンフロアーとなっているため、そこに立っているだけで患者の状態が目に入った。調査では、申し送り前から丸テーブルにいる複数人の看護師たちのやり取りが見られた。1人の看護師が、フロアーにいる患者の1人を見ながら「昨日いた人-」と声を発した。それに対してその場にいる複数の看護師たちは、昨日の情報、それに対する判断、また過去の経験の想起といった様々な種類の会話が次々と生まれ、患者の理解が広がった。さらに1人の看護師の質問に看護師たちが即座に応答したことは、その患者に対して看護師たちが関心を持っていたためと捉えられた。また丸テーブルでの看護師たちの立ち位置に着目した。時間になっても丸テーブルにいない看護師に気づき心配していた。 師長の立ち位置は毎回同じで、他のメンバーにも暗黙に了解されていた。リーダー、メンバーは丸テーブルの近くにいたが、フリー業務者や応援勤務者は離れていることがあった。師長の「30分ですよー」という言葉が、申し送りの開始を示していた。丸テーブルからフロアーの方に振り返ると、深夜のリーダー看護師がフロアーからやって来て、夜間帯の申し送りが始まった。丸テーブルでの看護師の立ち位置や行動によって、お互いのその日の役割や馴染み具合を習慣的に理解していると捉えられた。
【考察】原(2010)の研究によると、ナースステーションにおける看護チームの相互作用は、ほとんどが2人で構成され、意見交換は少なく情報交換が中心であるとした。それに対して本研究においては、申し送り前から複数の看護師が何気ないやり取りにより、情報交換だけでなく、意見交換もする場となっていることが明らかになり、新たな知見が見出された。また集中治療室における外傷患者の転帰とベッドの配置についての研究(Pettit, Wood, Lieber, & O’Mara, 2014)によると、有意差は見られなかったものの、集中治療室の構造とベッドの配置が患者の転機に影響すると看護師が捉えていることを示している。本研究においては、ナースステーションから見えるベッドの位置が看護師たちの会話を生み出し、患者の理解を深めたことは明らかであった。これは集中治療室の空間構造を検討する上での一示唆となったと考える。 さらに習慣化された暗黙の了解により、言葉に出さずとも実践が営まれていることが明らかとなった。これはメルロ=ポンティ(1945/1967)の言葉である、我々の身体は、目に見えない「習慣的身体」の層が、人の行動を支えていることを表している。
【結論】看護師たちの協働実践は、患者の今の状態が見える集中治療室の場の構造により、患者に関心が向かうことから編成されていた。また看護師たちがともに居合わせることが、病棟全体としての協働実践の下地となっていた。