10:56 AM - 11:10 AM
[O1-05] ICU退室1年後の高齢患者の食欲不振とうつ症状の関連‐SMAP‐Hope‐Study:SecondaryAnalysis
Keywords:集中治療後症候群、うつ症状、食欲不振、高齢者
【目的】食欲不振は高齢者によく見られ、サルコペニアの独立した危険因子である。現在、集中治療後症候群が注目されているが、ICU退室後の食欲不振について調査した研究は稀である。そこでICUから退室し、自宅で生活する1年後の患者において食欲不振の発生、および、集中治療後症候群のひとつである、うつ症状との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】本研究は全国12施設のICUにおける多施設共同研究(以下、SMAP-Hopeとする)のサブグループの解析である。主管施設および各施設の倫理委員会の承諾を得て実施した。SMAP-Hope-Studyは2019年10月から2020年7月の間にICUに4日以上滞在し、1年経過後に在宅で生活している18歳以上の患者778名に対し、メンタルヘルスやQOL、食欲を含む質問票一式を送付し、集中治療後症候群に該当する症状の発生頻度とリスク因子を調査した。本研究では、サルコペニアのリスクが高くなる65歳以上の患者を抽出した。食欲不振は、日本語訳簡易栄養食欲調査票(J-SNAQ)を用い、14未満を食欲不振とした。うつ症状はHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)のHADS-Dを用いた。統計解析は、連続変数、尺度変数に関しては中央値(四分位範囲[IQR])、カテゴリカル変数は割合で表記した。食欲不振はJ-SNAQ14点未満と定義し、うつ症状の強さと食欲不振と関連は、一般化線形混合モデルを用いた(GLMM)。共変量としては、消化器疾患、うつ病、ICU入室時の悪性腫瘍などを事前規定した。解析にはR software 4.0.2 (R Foundation for Statistical Computing, 2020) とStata/IC16 (Stata Corp, TX) を使用した。
【結果】対象患者501名のうち、J-SNAQの項目が欠落していた33名を除外し、完全ケース分析として468名を対象にした。年齢の中央値は75歳[71-80]で約70%が男性、半数が予定手術であり、もっとも多い入室理由は心臓血管外科手術後(218名46.4%)であった。J-SNAQスコアは14.2±1.6で食欲不振の有症状率は25.4%(95%CI、21.5‐29.5)であった。GLMMでは、高いうつ症状があると食欲不振である確率が高かった。(OR,1.20:95%CI,1.14‐1.28:p=0.00)
【考察】過去の研究と比較すると、食欲不振(J-SNAQ<14)の有病率は在宅で過ごす高齢者の9.8%、リハビリテーション病棟の24.7%の報告がある。本研究では在宅で生活している患者であるが、食欲不振の有病率は、リハビリテーション病棟のそれと同程度であった。また、うつ症状の重症度が高いと食欲不振の確率が高くなることが関連していることが示唆された。この関係性の原因は明らかではないが、うつは食欲不振の原因であることは、重症患者を対象とした患者以外では既知の事実であり、PICSのひとつである、うつが食欲不振に寄与している可能性はあるといえる。しかしながら、本研究では、うつ症状と食欲不振症状は同時に測定しており、因果関係は明らかではない。よって、今後は因果関係を明らかにする研究が必要である。
【結論】 ICU退室12ヶ月後の患者において、うつ症状の強さと、食欲不振である確率は関連している可能性が示唆された。退室後もメンタルヘルスのモニタリングは必要である。
【方法】本研究は全国12施設のICUにおける多施設共同研究(以下、SMAP-Hopeとする)のサブグループの解析である。主管施設および各施設の倫理委員会の承諾を得て実施した。SMAP-Hope-Studyは2019年10月から2020年7月の間にICUに4日以上滞在し、1年経過後に在宅で生活している18歳以上の患者778名に対し、メンタルヘルスやQOL、食欲を含む質問票一式を送付し、集中治療後症候群に該当する症状の発生頻度とリスク因子を調査した。本研究では、サルコペニアのリスクが高くなる65歳以上の患者を抽出した。食欲不振は、日本語訳簡易栄養食欲調査票(J-SNAQ)を用い、14未満を食欲不振とした。うつ症状はHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)のHADS-Dを用いた。統計解析は、連続変数、尺度変数に関しては中央値(四分位範囲[IQR])、カテゴリカル変数は割合で表記した。食欲不振はJ-SNAQ14点未満と定義し、うつ症状の強さと食欲不振と関連は、一般化線形混合モデルを用いた(GLMM)。共変量としては、消化器疾患、うつ病、ICU入室時の悪性腫瘍などを事前規定した。解析にはR software 4.0.2 (R Foundation for Statistical Computing, 2020) とStata/IC16 (Stata Corp, TX) を使用した。
【結果】対象患者501名のうち、J-SNAQの項目が欠落していた33名を除外し、完全ケース分析として468名を対象にした。年齢の中央値は75歳[71-80]で約70%が男性、半数が予定手術であり、もっとも多い入室理由は心臓血管外科手術後(218名46.4%)であった。J-SNAQスコアは14.2±1.6で食欲不振の有症状率は25.4%(95%CI、21.5‐29.5)であった。GLMMでは、高いうつ症状があると食欲不振である確率が高かった。(OR,1.20:95%CI,1.14‐1.28:p=0.00)
【考察】過去の研究と比較すると、食欲不振(J-SNAQ<14)の有病率は在宅で過ごす高齢者の9.8%、リハビリテーション病棟の24.7%の報告がある。本研究では在宅で生活している患者であるが、食欲不振の有病率は、リハビリテーション病棟のそれと同程度であった。また、うつ症状の重症度が高いと食欲不振の確率が高くなることが関連していることが示唆された。この関係性の原因は明らかではないが、うつは食欲不振の原因であることは、重症患者を対象とした患者以外では既知の事実であり、PICSのひとつである、うつが食欲不振に寄与している可能性はあるといえる。しかしながら、本研究では、うつ症状と食欲不振症状は同時に測定しており、因果関係は明らかではない。よって、今後は因果関係を明らかにする研究が必要である。
【結論】 ICU退室12ヶ月後の患者において、うつ症状の強さと、食欲不振である確率は関連している可能性が示唆された。退室後もメンタルヘルスのモニタリングは必要である。