第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

トリアージ

[O1] O1群 トリアージ①

2019年10月4日(金) 10:20 〜 11:20 第4会場 (3F 中会議室301)

座長:奈良 史恵(関越病院)

[O1-3] Emergency Severity Indexを用いた緊急度判定はJTASを上回る

髙岡 宏一, 掛田 崇寛 (関西福祉大学看護学部看護学科)

【はじめに】従来,救急部門において,多数訪れる受診患者の中から緊急度の高い患者を選別し,看護師による診察の優先順位を判断する緊急度判定が重要視されている。本研究では,この判定を補助する緊急度判定支援システム(トリアージツール)の一つであるEmergency Severity Index(ESI)に注目した。このESIは,臨床推論に基づいた緊急度評価に加えて,検査や処置,いわゆる医療リソースを基準に組み込み,明確に掲示されたアルゴリズムに沿って5段階の緊急度を判定する。さらに,救急外来での実務経験を重視した構成となっており,看護師の主体的なトリアージへの参画が期待される。本研究の目的は,救急外来での経験が豊富な看護師を対象に,ESIを用いた緊急度判定の精度を本邦の救急部門で広く運用されるJapan Triage and Acuity Scale(JTAS)と比較し,この有用性を検証することである。

【方法】本研究はパラレルデザインを用いた無作為化比較試験で実施した。全国の救命救急センターに所属し,日常的にJTASを用いた緊急度判定を実施している看護師を対象とした。さらに,対象の選定基準は,看護師経験年数10年以上20年未満,トリアージツール利用年数3年以上10年未満および救急看護に関する専門資格(急性・重症患者看護専門看護師,救急看護認定看護師,集中ケア認定看護師,特定行為研修を修了した看護師)を有する看護師(熟練看護師)とした。研究同意の得られた対象者をESI群とJTAS群へ登録順に無作為割付し,両群に合わせた介入を実施した。介入内容として,ESI群はツールに関する講義,JTAS群には復習学習を課した。その上で,両群に共通の模擬患者課題(80問)を通した緊急度判定を回答してもらった。緊急度判定精度の検証は,評価者間一致の指標であるκ係数を用いて判定した。両群の評価者間一致をCohen’s κ,各緊急度別の評価者間一致をFleiss’s κで比較検証した。また,両群のオーバートリアージ(OT)およびアンダートリアージ(UT)を算出し,両群をPearsonのカイ二乗検定で分析した。さらに,課題開始から終了までの判定時間,トリアージツールの使い易さをVisual Analog Scale(VAS)で評価した。

【倫理的配慮】関西福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。

【結果・考察】研究対象者として23名の熟練看護師(ESI = 12名,JTAS = 11名)が参加した。両群の評価者間一致は,ESI = 0.82,JTAS = 0.74であり,ESIがJTASと比較して高い評価者間一致を認めた。次に,各緊急度別の評価者間一致において,レベルⅡ(ESI = 0.58,JTAS = 0.48),レベルⅢ(ESI = 0.58,JTAS = 0.49)であり,特に判定に難渋する基準でESIはJTASに比して,高い評価者間一致を示した。さらに,UTはESI = 20.3%,JTAS = 30.3%,OTはESI = 14.8%,JTAS = 16.7%であり,両群間に有意な差があった(p < 0.01)。すなわち,ESIはJTASと比較して,全体的な緊急度判定精度が優れていること,緊急を要する患者群への判定精度が高いこと,およびUTやOTに減少によって,隠れた緊急患者の病状悪化の防止,重症患者の待機時間減少に貢献することが示唆された。一方,VAS,判定時間は有意差を認めなかった。

【結語】熟練看護師によるESIを用いた緊急度判定は、JTASと比較して高い判定精度を認め,救急臨床に貢献するトリアージツールであることが示唆された。