第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

プレホスピタルケア

[O2] O2群 プレホスピタルケア

2019年10月4日(金) 10:20 〜 11:30 第6会場 (3F 中会議室303)

座長:坂田 司(徳島赤十字病院)

[O2-1] パリ救急医療システム研修からの学び

辻本 真由美 (横浜市立大学附属市民総合医療センター 救命救急センターEICU)

目的:当院は、横浜市とパリ公立病院連合(AP-HP)との間で、救急医療をはじめとした医療分野での連携を行う覚書を締結し、人事交流を主軸とした様々な連係事業を進めている。2016年より医師・看護師と横浜市医療局、消防局の職員がパリで研修を行っている。フランスにおける救急医療システムや専門看護師のあり方から、超高齢化社会を迎える日本における救急看護への示唆を得たので報告する。
倫理的配慮:個人を特定する情報を含まないよう配慮した。
結果:フランスではSAMUという、救急通報から現場・病院搬送まで医師が介入する救急医療システムがあり、必要に応じてドクターカーであるMICUが現場に出動する。MICUは、ドライバー、医師、麻酔看護師のチームで構成され、医師が問診・診断や本部との調整を担い、麻酔看護師は現場での気管挿管や薬剤投与など処置を行う。状態が安定している患者の病院間搬送は、医師の同乗なく麻酔看護師が行う。MICUが出動後は医師が現場でABCの安定を図り、SAMUが適切な病院を選定し、手術室やカテーテル室へ直接搬送しており、短時間で根本治療を提供できる強みを持っていた。また、MICUが出動しても、現場で病院搬送が必要ないと判断した場合は、医学的アドバイスのみで引き上げるケースもあった。さらに、精神科病院からの要請でMICUが出動したケースがあり、SAMUは病院からの依頼にも応じRRSのような役割も担っていた。AP-HPは約2万2千のベッドと200の手術室を有しており、患者の状態に応じて病院を選定し、MICUが転院搬送も行う。これにより、ひとつの病院がすべての診療科や機能を持つ必要がなくなっている。このような連携は病院間に限らず、病院と大学との間にも存在し、理論教育や研究と実践教育をうまく融合できていると言う。病院研修中には、脳死とされ得る状況に陥り家族への説明と同意の下、挿管チューブを抜去した事例があった。これは、2005年に制定された尊厳死法によるものである。この他、在宅入院制度というシステムがあり、術後の早期退院、在院日数の短縮に貢献していた。
考察:SAMUは、緊急度・重症度に応じて早期から医療介入を行う点や、地域を点ではなく面で捉え地域全体で組織的に救急医療を展開する点が優れていた。横浜市では、フランスの救急医療を参考に、これまで救急相談センター#7119の導入や横浜救急医療チームYMATの拡充を図っており、今後は横浜型ドクターカーシステムの検討を開始している。超高齢化社会を迎える日本において、不要な救急搬送を減らすこと、必要な治療が適切に受けられる病院へ短時間で搬送することは、予後の改善・QOLの維持という点でも重要である。パリの多くの病院が公立であるという前提が日本と異なるが、地域ごとの病院や大学がゆるやかな連係を持つことが、限られた資源を有効に活用する鍵だと感じた。また、日本では望まない延命治療が開始され、継続されるケースがやむを得ず多い現状にある。医療制度の違いもありフランスは在院日数が日本より短い現状にある。終末期に限らず、意思決定支援を十分に行うことが、ひいては在院日数の短縮や不要な救急搬送を減少させることにつながると感じた。このような意思決定支援も、地域から病院、そして地域へと連続性を持たせることが課題と感じる。日本の専門看護師は、フランスと比較し数が少なく、役割に法的根拠はない。しかし、システムつくりや、プロトコールの作成など枠組みを整えること、そして大学と病院や、病院と地域の橋渡しとなり臨床と理論を繋ぐ役割が重要だと感じた。