第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

トリアージ

[O29] O29群 トリアージ③

2019年10月5日(土) 13:30 〜 14:20 第9会場 (1F 中会議室103)

座長:田中 浩(東京都立広尾病院 看護部 救命救急センター)

[O29-2] 院内トリアージにおける痛みに関する記載率向上に向けた取り組み

五十嵐 佑也, 武藤 博子 (福島県立医科大学附属病院 災害医療・高度救命救急センター)

【はじめに】A病院は高度救命救急センターとしての役割を担い、Walk-in来院患者は救急外来看護師が緊急度判定支援システム(JTAS)に準じた緊急度判定を実施している。A病院救急外来受診患者の特徴のひとつに頭痛や腹痛等の「痛み」を訴えて来院する患者割合が高い傾向にあることが挙げられる。しかし2018年9月~11月に来院された痛みを訴える患者の院内トリアージ記録用紙を振り返ると、疼痛の強さの記載率が58%であり、痛みに関する観察や記録が徹底されていないことがわかった。このため痛みに関する観察やトリアージ記録用紙への記載率向上に向けた取り組みを行ったため報告する。
【目的】痛みを訴えるwalk-in患者の院内トリアージ用紙を振り返って現状の把握と分析を行い、今後の院内トリアージの質向上に向けた課題を明らかにする。
【方法】痛みを訴える患者への観察項目・記載についての勉強会を行い、緊急度判定に関するシミュレーション教育を行った。さらに記録用紙に記載漏れがないかトリアージ看護師が再確認できるような改定も行った。これらの対策を講じる前をA群(2018年9月~11月)、対策後をB群(2018年12月~2019年2月)とし、痛みに関する観察項目の「発症様式」「増悪/寛解因子」「性質/強度」「放散の有無」「随伴症状」「時間経過」の6項目の記載の有無を確認し、項目毎にχ2検定を用いて分析する。
【倫理的配慮】得られたデータは数値化し個人が特定されないよう配慮した。また福島県立医科大学附属病院看護部で倫理的な問題がないと認められた。
【結果】対象期間の痛みを訴える患者来院数はA群507名、B群651名だった。各項目の記載数は「発症様式」A群71件(14%)B群172件(26%)p<0.001、「増悪/寛解因子」A群97件(19%)B群155件(24%)p=0.06、「性質/強度」A群293件(58%)B群590件(91%)p<0.001、「放散の有無」A群78件(15%)B群153件(24%)p<0.001、「随伴症状」A群238件(47%)B群505件(78%)p<0.001、「時間経過」A群380件(75%)B群565件(87%)p<0.001だった。JTAS2017の神経系・心血管・消化器のカテゴリーに該当する主訴で来院した患者に限定して同様に調査したところ、「性質/強度」「随伴症状」の2項目で両群間に有意差(p<0.001)を認め、それ以外の4項目では有意差を認めなかった。
【考察】痛みの中でも急性発症・疼痛強度・深在性疼痛は生命危機に直結するサインであり、診察の優先順位や待機場所の選定をするにあたり重要な要素となる。痛みに関する情報のトリアージ用紙記載率は両群間で比較するとほぼ全ての項目で有意差を認めた。これはトリアージの勉強会やシミュレーション教育・記録用紙の改定による成果といえる。しかし、特に痛みの評価をより重点的に行わなければならない頭痛や胸痛・腹痛といった症状で来院した患者のトリアージ用紙を両群間で比較すると記載率の向上は「性質/強度」「随伴症状」の2項目に限られてしまう。トリアージの本質は危険な徴候を見逃さずに適切な医療が速やかに行われるよう安全を担保することにある。そのために救急外来看護師には病態予測・問診・フィジカルアセスメント・臨床推論、これらが高いレベルで求められる。救急外来の限られた時間でこれらの観察・記録が出来るようになることを今後の課題として活動していきたい。