第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD4] 高齢社会に向けた病院前救急診療活動の現状と展望

2019年10月5日(土) 14:40 〜 16:30 第2会場 (2F コンベンションホールB)

座長:伊藤 敬介(高知医療センター), 福田 ひろみ(徳島赤十字病院 ER)

[PD4-4] ドクターヘリの活動から見えたプレホスピタルケアの現状と課題

峯山 幸子 (東海大学医学部付属病院 高度救命救急センター)

当院高度救命救急センターの看護師は主にドクターヘリ、ドクターカー(ワークステーション)、洋上救急等でプレホスピタルケアに従事している。ドクターヘリは1999年の試行的事業から運航を開始し、2001年の「ドクターヘリ導入推進事業」として本格導入され、今日に至る。出動要請後5分以内に離陸し、医師・看護師が患者のもとへ向かい、直ちに初期治療を開始する。2014年からは広域連携として山梨県、静岡県と連携した事業を展開している。症例は内因性、外因性疾患がおよそ50%ずつで、緊急度、重症度ともに高い疾患が多く、年齢は乳児から高齢者と幅広い。年間出動件数は平均260件と他県に比して少ないものの、事後検証による救命率は82%、救急隊の出動要請判断の適確性は100%となっている。ドクターカーは1993年から運用を開始し、2019年からはワークステーション方式による現場出動も開始した。ワークステーションは意識障害や胸痛等12のキーワードをもとに現場へ出動する。運用開始から出動件数は増加傾向にあり、今後も出動件数の増加や症例の複雑化が予測される。プレホスピタルケアの拡充が益々予測される中、看護師には切迫した時間の管理、情報からのアセスメント、意図的な看護介入等が求められる。
 実際の看護実践においてはドクターヘリ、ドクターカーの「看護の違い」はほぼない。天候や距離、時間といった条件によりプレホスピタルケアの提供手段が変わる。今後、ドクターヘリやドクターカーの迅速性と機動性をさらに活用するためには、以下のような課題があると考える。
 現場で看護師が直面する課題のひとつは「情報収集」である。超高齢社会を迎えた本邦において、平成30年度総務省消防庁のデータでは高齢者の救急搬送の割合は58.8%と増加の一途をたどっており、当院のドクターヘリも約60%が高齢者搬送である。緊急発症、受傷の患者は情報が少ないことに加え、高齢者は持病や薬歴等が原疾患と複雑に絡み合っていることが多い。また、意識障害を呈する患者では情報収集が難航する。今後、高齢独居、老々介護、認知症等の増加により、さらなる情報収集の難航や意思決定の難渋が予測される。救急隊との情報共有はもちろんのこと、緊急連絡先や服薬歴等を記載した医療情報シートの存在は重要な情報源となり得る。シートの情報更新や近隣市区町村と連携した医療情報シートの活用法の整備等が課題である。二つ目は「マンパワー不足」である。プレホスピタルケアの拡充に伴うマンパワーの不足には、十分なメディカルコントロールのもと、看護師特定行為を拡大していくことが問題解決の一助となる可能性がある。また、効率的な運用について、地域とともに十分な協議が必要である。そして三つ目の課題は「アセスメント」である。少ない情報をいかに活用し看護介入に結び付けるか、複雑に絡み合う情報をいかに整理しアセスメントするか等、看護師が限られた情報から五感をフルに活用しアセスメントできる能力を向上させることも課題である。
 本セッションでは、当院のドクターヘリの活動から見えたプレホスピタルケアの現状と課題について述べ、プレホスピタルケアの展望ついて検討していきたい。