[RTD1-2] 急性腹症疑いで搬送された急性大動脈解離の一例から考える検査の準備の意義
【はじめに】大動脈解離は発症直後から経次的変化を引き起こすため動的な病態となり、臨床症状は多彩で迅速な判断および対応が必要とされている。大動脈解離の確定診断は、胸部造影CTとされているが、胸部造影CTの判断は検査前確率が重要である。そこで、今回、食事中に腹痛が出現し急性腹症疑いにて搬送された患者が急性大動脈解離の診断と至った症例を振り返り、救急初療看護の役割の一つである検査の準備の妥当性について検討した。
【研究目的】急性腹症疑いの患者に対して、急性大動脈解離の診断に至るまでの検査の有用性を明確にし、検査の準備の意義について検討する。
【事例】60歳代女性
【救急隊からの情報】食事中に腹痛を訴え救急車を要請する。【一次評価】顔面蒼白、冷汗は著明、バイタルサインは安定している。【二次評価】疼痛強く(引き裂かれたような疼痛)、腹部全体の疼痛を訴えており、問診を詳細に聞くことができず、身体所見においては血圧の左右差はなく、腹部、神経学的所見も有用な所見は認めなかった。【ベッドサイド検査】胸腹部超音波検査では、左室運動良好、壁運動異常なし、心嚢液貯留なし、上行大動脈拡張なく、フラップについては抽出不良、FASTは陰性、腹部大動脈に内膜フラップを認めた。心電図12誘導では、53bpm,ST-T変化なし。胸部X線では、肺野透過性亢進・低下なし、縦隔拡大(10cm)を認めた。【胸腹部CT】上行大動脈にエントリーがあり、解離が下行大動脈まで及ぶ。【診断】急性大動脈解離(Stanford A型)【治療方針】 B病院へ転院搬送となる。
【考察】急性腹症において、「急性心筋梗塞」「腹部大動脈瘤破裂」「肺動脈塞栓症」「大動脈解離」は仮説疾患として想起する必要がある。今回の事例において、ADDリスクスコアは1点であり大動脈解離のリスクとしては中等度であった。胸部大動脈疾患ガイドライン・診断アルゴリズムに準じ、ADDリスクスコア1点の場合は、心電図12誘導でACSを除外する必要があり、また、緊急検査として胸部X線、心臓超音波検査は必須である。身体所見とベッドサイド検査の所見の確率を合成し、胸部造影CTの検査前確率を求め、検査の有用性について検討した。大動脈解離の罹患率は、ナゼリアンらの研究において、ADDリスクスコア1点の罹患率は27.3%であったため、その罹患率を参考にした。大動脈解離の予測因子として3つあり、そのうちの①「引き裂かれたような痛み」②「胸部X線の縦隔拡大」の二つが該当しており、解離の確率(陽性尤度比=5.3)が上昇した。また、本事例では、「腹部超音波検査において大動脈の内膜フラップ」が認めており、心臓超音波検査による上行大動脈のフラップについては、解離の確率(陽性尤度比=8.9)を上昇させる。上行大動脈フラップの陽性尤度比を参考に、モノグラムを使って分析した結果、大動脈解離の可能性は約90%まで上昇しており、胸部造影CTの検査は必要であることを示唆した。
【結論】救急初療において、検査の準備は救急看護師とって重要な役割の一つである。身体所見やベッドサイド検査の所見を情報共有し、臨床推論を駆使した上で、医師とアセスメントを共有することが、検査の準備の妥当性を担保し、迅速に治療を開始することができる。その結果、救命への貢献性を高めることができると考える。
【研究目的】急性腹症疑いの患者に対して、急性大動脈解離の診断に至るまでの検査の有用性を明確にし、検査の準備の意義について検討する。
【事例】60歳代女性
【救急隊からの情報】食事中に腹痛を訴え救急車を要請する。【一次評価】顔面蒼白、冷汗は著明、バイタルサインは安定している。【二次評価】疼痛強く(引き裂かれたような疼痛)、腹部全体の疼痛を訴えており、問診を詳細に聞くことができず、身体所見においては血圧の左右差はなく、腹部、神経学的所見も有用な所見は認めなかった。【ベッドサイド検査】胸腹部超音波検査では、左室運動良好、壁運動異常なし、心嚢液貯留なし、上行大動脈拡張なく、フラップについては抽出不良、FASTは陰性、腹部大動脈に内膜フラップを認めた。心電図12誘導では、53bpm,ST-T変化なし。胸部X線では、肺野透過性亢進・低下なし、縦隔拡大(10cm)を認めた。【胸腹部CT】上行大動脈にエントリーがあり、解離が下行大動脈まで及ぶ。【診断】急性大動脈解離(Stanford A型)【治療方針】 B病院へ転院搬送となる。
【考察】急性腹症において、「急性心筋梗塞」「腹部大動脈瘤破裂」「肺動脈塞栓症」「大動脈解離」は仮説疾患として想起する必要がある。今回の事例において、ADDリスクスコアは1点であり大動脈解離のリスクとしては中等度であった。胸部大動脈疾患ガイドライン・診断アルゴリズムに準じ、ADDリスクスコア1点の場合は、心電図12誘導でACSを除外する必要があり、また、緊急検査として胸部X線、心臓超音波検査は必須である。身体所見とベッドサイド検査の所見の確率を合成し、胸部造影CTの検査前確率を求め、検査の有用性について検討した。大動脈解離の罹患率は、ナゼリアンらの研究において、ADDリスクスコア1点の罹患率は27.3%であったため、その罹患率を参考にした。大動脈解離の予測因子として3つあり、そのうちの①「引き裂かれたような痛み」②「胸部X線の縦隔拡大」の二つが該当しており、解離の確率(陽性尤度比=5.3)が上昇した。また、本事例では、「腹部超音波検査において大動脈の内膜フラップ」が認めており、心臓超音波検査による上行大動脈のフラップについては、解離の確率(陽性尤度比=8.9)を上昇させる。上行大動脈フラップの陽性尤度比を参考に、モノグラムを使って分析した結果、大動脈解離の可能性は約90%まで上昇しており、胸部造影CTの検査は必要であることを示唆した。
【結論】救急初療において、検査の準備は救急看護師とって重要な役割の一つである。身体所見やベッドサイド検査の所見を情報共有し、臨床推論を駆使した上で、医師とアセスメントを共有することが、検査の準備の妥当性を担保し、迅速に治療を開始することができる。その結果、救命への貢献性を高めることができると考える。