第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(ラウンドテーブルディスカッション (RTD))

トリアージ

[RTD13] RTD(CN)13群 トリアージ

2019年10月5日(土) 10:30 〜 11:50 RTD会場 (2F 国際会議室)

座長:平山 幸枝(帝京大学医学部附属病院)

[RTD13-6] 発熱症候で来院する高齢者のJTASレベル3または4の判定における補足因子の検討

黒木 真二 (独立行政法人 地域医療機能推進機構 九州病院)

【はじめに】
 A病院を受診した患者のなかで60歳以上は約40%を占めている。症状別患者割合では、発熱は腹痛に次いで2番目に多い症候であった。A病院が所在するB市の高齢化率は、全国の政令指定都市のなかでも高く、総務省統計局の人口推計結果では、2035年は人口の3人に1人が高齢者になるとされている。今後は、高齢者の増加に伴い、発熱症候で来院する高齢者の増加が予測される。
 発熱症候における院内トリアージの指標は、JTAS2017では38℃以上の発熱の場合、敗血症スクリーニングの指標であるquick SOFA(以下qSOFA)で確認することが規定されている。qSOFA2項目未満の場合は、緊急度はJTASレベル3または4と判定される。しかし、補足因子は「具合悪そう」「具合良さそう」という曖昧な判定理由であり、明確な指標がない現状である。さらに高齢者の場合は非典型的な症状を呈することが多く、アセスメントの過程は難渋する。そこで、発熱症候で来院する高齢者のトリアージの精度を上げるためには明確な指標を設定することが望ましいと考えた。
【目的】
 発熱症候で来院する高齢者のJTASレベル3または4の判定における補足因子を検討する。
【方法】
 対象:施設入所中の80歳台女性。発熱症候で施設職員と来院。
 研究方法:JTAS2017のトリアージプロセスに沿って観察を行う。特に、問診、身体所見については網羅的に情報を聴取して、得られた情報から有効な補足因子について文献的考察を行う。
 倫理的配慮:内容から個人が特定できないように配慮し、データ管理はロック機能付USBメモリを使用する。
【結果】
 第1印象は異常なし。1次補足因子の第1段階では、qSOFAの該当はなし。呼吸苦はないがSpO₂94%であり、肺野にはcoarse crackleを聴取したため、最終的にはSpO₂の値からJTASレベル3と判断した。診察の結果、「肺炎疑い」と診断され、近医へ紹介状が発行され帰宅となった。
【考察】
 患者の自覚症状が乏しい中で、施設職員は「何かいつもと違う」と漠然とした何らかの懸念を抱いていた。施設職員が抱いた懸念は直感的なものであるが、医療者も同様に抱く「何かいつもと違う」という経験的な感覚と同様である。佐野は、この感覚のことを「重症感がある」と表現しており、症候学的には行動的反応(日常生活行動の変化)として現れると述べている。日常生活行動の変化は、食事、睡眠、排泄、更衣、移動、整容といった行動であり、今回の事例では、食欲低下が該当していた。
 さらに、食欲低下と敗血症の関連性について文献検索を行った結果、食欲抑制にはレプチンが影響することがわかった。レプチンは、TNF-αとともに脂肪組織から分泌されるサイトカインである。敗血症患者は非敗血症患者と比較して、有意に高いレプチン血清濃度を示しており、敗血症診断の感度・特異度は72%であった(カットオフ値5.1mg/dl)。また、レプチンとTNF-αの間に有意な相関があり、レプチンが初期炎症期に重要な因子であることも示されていた。以上のことから、レプチンが敗血症患者と非敗血症患者を区別するための指標となることが分かった。
【結論】
 食欲低下を意図的に捉えることができれば、qSOFAに該当しなくとも敗血症のリスクを早期に認識することができ、非典型的症状を呈する高齢者においても評価しやすく明確な指標として有用であると言える。したがって、発熱症候で来院する高齢者のJTASレベル3または4を判定する際、食欲低下を有効な補足因子として活用できると考える。