第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

災害看護

[O4] 一般演題4

[O4-06] 高齢者施設に対するDMATの活動報告-リロケーションケアに繋ぐ視点-

○小岩井 千夏1、山崎 友香子1 (1. 信州大学医学部附属病院高度救命救急センター)

Keywords:災害、高齢者、リロケーション、高齢者施設

【はじめに】
 令和元年10月12日、台風19号が上陸し、日本各地で甚大な被害をもたらした。翌日、長野市では千曲川の堤防が決壊し、広域にわたり住宅街が冠水した。同日から3日間、A病院第1隊目の災害派遣医療チーム(以下DMAT)が出動し、主に高齢者施設の災害支援を行った。施設避難による搬送先の選定や、移動を余儀なくされる高齢者の思い、それを取り巻く周囲の反応等から学んだことを報告する。
【倫理的配慮】
 報告内容を発表することについて所属部署の管理者の許可を得た。また、報告内容は個人が特定されないよう表記し、活動時に収集した情報は活動報告の目的以外で使用しないよう管理した。
【活動概要】
 活動1日目はDMAT活動拠点本部の指示に従い、介護老人保健施設と特別養護老人ホームBへ行き、医療ニーズを確認した。B施設職員からは「利用者のことを思うと、なるべくここで頑張りたい。」という言葉があった。
 活動2日目は、施設避難が必要な特別養護老人ホームCからトリアージで「赤」と判断された約90名と「黄」と判断された約30名を近隣の急性期病院へ搬送するミッションであった。1階が水没したC施設の被害は深刻であり、長期間使用できない状況であると推測できたが、搬送される施設利用者に対しC施設職員が手を握りながら「ここに帰って来るんだよ。」と声を掛けている姿が印象的であった。また、急性期病院への搬送を拒否する利用者・家族がおり、再度搬送先をマッチングする事態が発生していた。
 活動3日目のミーティングでは、DMATが行っている搬送に対し同意が得られず、勝手に連れていかれたと感じる施設利用者・家族が多く存在することが問題に挙がった。そのためDMATのみで行っていたマッチングに行政が介入し、療養型施設や介護施設を中心に搬送することになった。活動終了時刻となり、後方隊へ引き継いだ。
【考察】
 DMATとは、災害直後から被災地にかけつけ、急性期(おおむね48時間以内)に救命治療を行うための専門的な訓練を受けた医療チームである。今回の活動では高齢者施設の利用者を対象としており、重度者のトリアージレベルは高くなるものの、急性期病院で新たな医療介入の必要はなく、違和感を覚えた活動であった。対象者のトリアージレベルを「赤」としたとき、医療では高度な治療介入が必要であると予測される一方で、福祉では高度なケア介入が必要であると認識されているため、そのギャップを埋める必要があると考えた。
 また、ライフラインの確保が難しく、施設避難を要する状況であっても、その場に留まりたい、帰りたいという利用者・家族、施設職員の思いを目の当たりにした。高齢者は防御力・予備力・適応力・回復力の低下により生活環境の変化を受けやすい。それゆえに、災害時のリロケーションによる身体的負担のみならず喪失感、混乱が深刻であると指摘されている。施設避難を要するような災害急性期においても、高齢者のリロケーションケアに繋ぐ視点を持ちながら、高齢者の時間軸と移り変わる状況を意識し、困難を体験している高齢者の自然な感情を打ち明ける機会を設け、その人なりに災害の受け入れができるよう促すことが必要であると考える。
【結語】
 災害急性期においても、高齢者のリロケーションによって引き起こされる身体・心理的特徴を理解するとともに、生活という長期的な視点を持ち活動する必要がある。