第22回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題

家族看護

[O7] 一般演題7

[O7-03] ICUダイアリーを通して感じた遺族の思い

○伊藤 礼香1、筒井 徹也1、竹本 有香1 (1. 高知県・高知市病院企業団立高知医療センター救命救急センター)

キーワード:ICUダイアリー 、遺族の思い

Ⅰ.はじめに

ICUダイアリーは、患者がICU滞在中もしくは退室後に読むことで、記憶の穴埋めによるPTSDの予防、せん妄からの早期離脱効果があるとされている。A病院救命救急センターにおいては、治療の甲斐なく結果的に亡くなってしまった場合も、故人の記録として希望された遺族へ後日郵送という形で提供を行ってきた。これまで看護師はICUダイアリーを受け取った遺族の反応を知る機会がなく、どのように感じているのか疑問に感じた。

Ⅱ.目的 

ICUダイアリーを通して感じた遺族の思いを明らかにする。 

Ⅲ.方法

A病院救命救急センターにて、2016年6月~2018年6月の期間にICUダイアリーを受け取った遺族2名にインタビューを実施し質的分析を行った。

Ⅳ.倫理的配慮

A病院の臨床研究審査委員会の承認を得た後に、遺族へ研究協力に関する文書を郵送し、アクセスのあった対象に再度主旨を文書を用いて口頭で説明し同意を得た。インタビューは遺族1名に対し研究者1名が実施し、遺族の精神的フォローの目的で急性・重症患者看護専門看護師が同席した。

Ⅴ.結果

異なる2事例より、それぞれ遺族1名(以下A・Bと表記する)に対して30分程度のインタビューを1回ずつ実施した。遺族は故人のキーパーソンであり、どちらも関係性は息子であった。遺族がICUダイアリーを受け取り、初めて読んでから現在までに感じた思いとして<故人の闘病生活を振り返ることができた>、<故人を思い出すきっかけとなった>、<辛い思いの再燃>、<遺品としての存在>、<故人と一緒に振り返りたかった>、<医療者への感謝の思い>の6つのテーマが明らかになった。

Ⅵ.考察

原田は、患者の死を認識・受容するためには、患者にまつわる情報提供が重要であると述べている。<故人の闘病生活を振り返ることができた>、<故人を思い出すきっかけとなった>という思いから、ICUダイアリーは日記という形で過去の情報を保存し、回顧に繋がるツールとなっていた。またAは、「その頃は、すごく記憶にあるから皆が集まれば話ができるけど、しばらく経つと、そういう話をすることが少なくなったから、届いた時は家族と話す機会になってよかった」と語っていた。ウォーデンは、残された人が喪失を受容するには、喪失について語れるように援助することが重要であると述べており、ICUダイアリーが、遺族間で故人の話をするきっかけになり、グリーフワークを促進する一助となっている可能性が考えられる。一方で、ICUダイアリーを読むことで故人の配偶者が辛い思いをするのではないかと危惧した発言が聞かれた。ホームズとレイによると、人生の出来事で最もストレスと感じるものは配偶者の死と述べられているように、故人との関係性によってはICUダイアリーの存在が、<辛い思いの再燃>に繋がる可能性が考えられる。Bは、ICUダイアリーが届いた直後は「辛い思いから1度簡単に読むことしかできなかった」と話したが、3年が経過した現在では、「もう1度読んでみたい」という思いに変化していた。これらのことから、悲嘆のプロセスの段階によってICUダイアリーへの思いも変化すると考えられる。保管方法の違いとして、Aは故人の配偶者の意向で、ICUダイアリーを1年ほどで故人の荷物を整理する際に焼却した。Bは、故人の遺品と共に持ち歩いており、今後も「大切に保管していく」と話した。一見、正反対な対応をしているが、ICUダイアリーは、<遺品としての存在>として捉えられていると考えられる。