第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

看護教育

[O9] 一般演題9

[O9-23] 救急領域における看護師への倫理教育の取り組み:質問紙調査による評価と教育支援の検討

○菊池 亜季子1 (1. 日本赤十字社医療センター 救命救急センター)

Keywords:倫理教育、救急領域、教育

【はじめに】
医療技術の進歩や価値観の多様化などにより、看護師は多くの倫理的課題に直面する。看護師が専門職としてより質の高い看護を提供するためには、深い知識と確実な看護技術だけでなく、高い倫理性が不可欠と言われている(日本看護協会, 2003)。特に救急領域の看護師は、患者・家族とのかかわりが十分にできず葛藤を抱くこと、倫理的課題を感じても多忙な業務で感情や思いを押し殺す場面も少なくない現状がある(木下, 2013)。また時間的制約の中で倫理的問題の認識、実践的対策立案が求められている。そこで、救急病棟において倫理分析方法について伝達講習を実施した。その取り組みの評価と今後の倫理教育における支援の検討を目的に質問紙を用いて分析することとした。

【目的と意義】
本研究では倫理分析方法の伝達講習の評価から、倫理における教育支援の検討を目的とする。
これにより、救急領域の看護師に対する倫理教育の示唆を得ることができ、倫理的感受性の醸成、倫理的行動の増幅が期待出来る。

【研究方法と倫理的配慮】
研究デザインは、質問紙を用いた質的記述的研究である。救急病棟に配属している看護師を対象に、質問紙を配布し、提出をもって同意とした。得られた順序尺度の回答は単純集計を行い、自由記述においては看護師への倫理教育支援について質的記述的に分析した。A施設の倫理審査の承認(2020-02)を得た上で行った。

【結果】
研究参加者は25名であった。倫理分析の活用について、「とても活用したい」56%、「少し活用したい」44%であった。倫理的課題について「よく感じていた」8%、「たまに感じていた」68%がであった。伝達講習後に変化したかについて、「とても変化した」16%、「少し変化した」72%、「あまり変化しなかった」12%と示された。
また自由記述の結果より、《患者や家族との関わりを意識する》《日常のモヤモヤを倫理的問題として考える》《多職種の思いを認める》の3つの変化の様相が抽出された。一方で、倫理を考える時に障壁となることについて、「時間がない」80%、「知識不足」60%、「支援がない」4%であった。サポートしてほしいことの自由記述には、《倫理カンファレンスに参加する》《継続的な倫理講習の必要性》の2つの提案が抽出された。

【考察】
救急看護を実践する看護者は、ケア倫理を理解し倫理的感受性を大切にして看護を展開するために、倫理的問題を認識し実践的対策を立てることができるよう倫理的意思決定能力を養う(日本救急看護学会, 2007)ことを求めている。倫理に関する伝達講習以降、変化を感じたスタッフは88%を示しており、倫理的感受性の醸成に関連していることが考えられる。目の前の患者や家族との関わりを意識し、モヤモヤを機会として捉え倫理的問題につなげていく様相は倫理的感受性の醸成に関連している。
語ることは、看護師自身の情緒的反応や価値を理解し問題状況を捉えなおすことでケアの方向性を見出し倫理的感受性が高められる(飯田, 2008)。語りを通して、医師や他職種の思いを聞き、価値を認め合う風土作りにも影響していたと考えられる。Choe(2015)らもまた、クリティカルケア看護師の倫理的葛藤について、倫理教育を増やすことや同僚と倫理的葛藤について話し合う場が必要であることを述べている。倫理に関する伝達講習の定期的な開催とともに、スタッフのモヤモヤを拾い上げられるような倫理カンファレンスの積極的な開催を行っていく必要がある。