第22回日本救急看護学会学術集会

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パネルディスカッション

[PD3] パネルディスカッション3

『119番の危機』

座長 中谷 茂子(医療法人マックシール巽病院 看護部 副院長)
   本田 可奈子(滋賀県立大学人間看護学部 基礎看護学講座 教授)

[PD3-02] 救急要請の実態~今後の救急車利用はどうあるべきかを考える~

○小田 浩文1 (1. 大津市消防局 警防課 課長補佐)

Keywords:救急要請

【はじめに】本国では、119番通報をすることにより救急隊が傷病者のもとにいち早く駆け付け、病態に応じた適切な医療機関へ必要な応急処置を行い安全確実に無料で搬送するシステムが構築されている。広く国民に認知された119番による救急要請は、本来緊急性のある傷病者のためにあるはずだ。しかし、現実的には緊急性のあるなしに係らず不適切な救急車利用も数多くある。【背景】大津市では、平成30年の全救急搬送件数に占める軽症者の搬送割合が全国平均48.8%に対して69.2%となっており、その割合が非常に高い。また、覚知から現場到着までの時間は全国平均8.7分に対して9分となっている。軽症者イコール不適切な救急車利用とは言えないが、救急出動件数の増加と現場到着時間遅延要因の一つと考えられ、不適切な救急要請の増加は救急救護体制に悪影響を及ぼしている。【目的】救急車要請の実態を共有し、今後の救急車利用を考えること。【実態】緊急性の高い要請内容では、突然倒れて呼吸と意識がない、食事中に窒息した、胸の痛みが続く、会話できず苦しがっている、呂律が回らない、歩行者が撥ねられ動かないなどが挙げられる。一方で緊急性が低い内容は、包丁で指を切った、怪我はないが交通事故なので、子供が転んで痛がっている、便がでない、薬がなくなったので病院まで行きたい、などが挙げられる。また、軽症内容でも老々介護夫婦で移動手段がなく救急要請に至るケースもある。高齢者施設では、DNAR対応手順が共有されておらず、救急要請を受けた救急隊が処置を行い医療機関到着後にDNARと判明するケースもある。さらに、身体に障害を持つ市民から「ベッドから落ちたので元に戻して欲しい」と要請される他、救急要請常習者の取扱いもある。行政機関の消防は、119番を受信すれば市民サービスの一環として原則救急車を出動させているのが現状で、国が普及を進めている「#7119」事業を実施している地域もあるが、設置課題もあり全ての地域で実施するには至っていない。【考察】救急隊は緊急性を伴わない搬送希望の傷病者と、受入れし難い環境下にある医療機関との間で板挟みという課題を抱えている一方で、医療機関側の立場で言えば、本来救急搬送されるべきではない傷病者を受入れて欲しいと依頼する救急隊に対して、そもそも論や自施設の事情などで受入れできないという課題があると想像でき、交渉時に感情的な問題に発展することも危惧される。これらの課題の背景には、緊急性という定義が一人一人違うこと、悪意があるなしに係らず救急車が便利な乗り物と化したこと、超高齢社会となったことなどが考えられる。他国だが「早くいくためには一人でいけ、遠くへ行きたければみんなでいけ」ということわざがあるように、例えば、救急要請常習者を医療機関に搬送するため早く解決したければ顔の見える関係をフルに発揮し、救急隊員個人のもつ裏技で医師と交渉して搬送すればその場は解決できる。しかし「遠くにいく(根本的な解決)」ためには、皆(国民の総意)で時間をかけてでも119番のあり方、救急隊が対応すべきではない事案の対応策、受入れ医療機関の整備など、必要な法整備に関しても、それぞれのステークホルダーが疲弊しないよう真剣に考え改善する必要がある。【まとめ】救急出動件数は増加の一途を辿っている。不適切な救急車利用が、本来助けるべき傷病者を救えなくする可能性があるため、国民一人一人が救急車利用はどうあるべきかを考え、議論し、救急隊のあるべき姿を明確にすべきである。1分1秒を争う傷病者のもとへ駆けつけるために。