第22回日本救急看護学会学術集会

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シンポジウム

[SY1] シンポジウム1

『救急看護と二次的トラウマ』

座長 森田 孝子
(元横浜創英大学 看護学部 看護学学科 元学部長・教授/日本救急看護学会 監事)

   阿久津 功
(医療法人辰星会 枡記念病院 看護管理室 看護部長・災害救急医療部 副部長)

[SY1-02] 支援者の二次的トラウマの予防ー個人が行う事と組織が行う事ー

○関根 剛1 (1. 大分県立看護科学大学 看護学部 看護学科人間関係学教室 准教授)

Keywords:二次的トラウマ、対策、研修コスト

【はじめに】
 日本において外傷後ストレス障害、いわゆるPTSDが専門家の間で一般化したのは奥尻島地震(1993)や阪神淡路大震災・地下鉄サリン事件(1995)以後である。同時期から、看護、消防、警察など、凄惨な現場で患者や被災者に対する救助や支援を通じて生じる救助者・支援者が被るトラウマも着目されるようになってきた。特に、消防庁では2001年から職員の惨事ストレスの実態と対策に組織的に取り組んでいる。しかし、多くの組織は必要性は認めつつ、常日頃からの対策がとられていない現状にある。
 筆者は、犯罪被害者支援組織、消防庁メンタルサポートチーム、大分県こころの緊急支援チームなど、支援者のPTSD予防活動に関わってきた経験から、予防の方策などについて述べたい。

【二次的トラウマの大きさ】
 ストレッサーとストレス反応が同じはでないように、衝撃的出来事とトラウマの大きさも同じではない。生じるトラウマの大きさは個人的特性だけではなく、組織の影響も受ける。
   二次的トラウマの大きさ = 個人の脆弱さ × 組織の脆弱さ
        個人の脆弱さ = 身体・精神 × 生活 × 組織内の立場
        組織の脆弱さ = 物理的・人的資源 × 組織内の葛藤
 つまり、支援者の二次的トラウマ予防には、個人と組織の脆弱さをアセスメント・補強する必要がある。そのアセスメントの為には、個人的な情報や組織が抱える問題を明らかにする必要がある。しかし、微妙な内容でもあり、容易に明らかにできるものではなく、日常からのコミュニケーションやリーダーシップ(PM理論のP機能)が重要である。

【看護現場における対策】
 実際の看護現場においてはどのような対策が行われているか、2013年に行った筆者の調査結果を表に示す(救急救命センターのある245医療機関)。この結果から、インフォーマルなサポートは行われているものの、組織だったサポート体制と、予防的な対策が十分ではない状況が見てとれる。

【個人と組織が行う対策】
1.事前対策
・個人:①二次トラウマの知識、②心身の健康状態の把握と維持
・組織:①マニュアル、②組織の脆弱性の把握(人的資源、組織内外の葛藤)
2.直後の対策
・組織:①チーム内ミーティング、②チーム状況のアセスメント→必要なチーム支援、③チームへのねぎらいとアセスメント
3.事後対策
・個人:①自分のストレスのアセスメント、②ストレスケア(話をする等)
・組織:①終了の儀式とミーティング、②ねぎらい、評価、休暇、③個人やチームのアセスメントと中長期のケアプラン
 なお今回のコロナの場合、一回のトラウマではなく、反復する日常的なストレスの累積であり、日常的なレベルでのケア対策が重要となる。

【研修コスト】
 二次トラウマ予防に関する研修は、DMATやDPATチームへは行えても、職員全体に行うことは、時間的・労力的に難しいのが実情であろう。いかにコストを下げて研修や訓練を行うかが現実的な課題である。そこで、交通事故被害者や犯罪被害者など、トラウマという個別性を配慮したケアを考えることは、被災時の患者ケアと同時に医療者自身のケアにも役立つ。なぜなら、患者ケアの知識は二次トラウマ防止の知識と重なるからである。さらに、集合研修ではなく、ネット上の教材を用いた自主研修など、研修や実践のコストを下げる方策を考えることが現実的に必要となると思われる。