[OD201-01] 倒れた人に遭遇した大学生において他者の存在が緊急事態の認識および救命行動へ与える影響
Keywords:院外心停止、緊急事態認識、傍観者効果、大学生、救命行動
【目的】人は自分の他に誰かがいる場合、責任の分散が生じるため率先して行動を起こしにくい(以下、傍観者効果)と言われている。心停止に陥った患者を救命する鍵は、偶然そばに居合わせた人(以下、バイスタンダー)が、迅速に心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation, CPR)を始める事であるが、バイスタンダーが緊急事態と認識しCPRを行うことと他者の存在との関係について十分な研究はなされていない。本研究は大学生を対象に、自分以外の他者の存在の有無が、倒れている人に遭遇した際の緊急事態の認識および救命行動に影響するかを調査した。
【方法】2019年4月8日から4月16日に行われた学生健康診断を受診したA大学2年生から4年生を対象に、横断研究を実施した。対象者の基本属性、倒れた人に遭遇した際の状況、CPRに関わる項目を含んだアンケートを健康診断会場で配布しその場で回収した。「遭遇時の他の人の有無」において、「はい」と回答したもの(他者の存在あり群)と、「なし」と回答したもの(他者の存在なし群)の2群に分けて、緊急事態の認識および救命行動に関して群間比較を行った。主要評価項目は、緊急事態の認識の有無とした。倫理的配慮として、回答は自由意志であり回答を行わないことで不利益がないことを口頭説明および掲示で周知した(倫理委員会承認番号:R0706)。
【結果】健康診断を受けた7,339名のうち4,979名(67.8%)からアンケートを回収した。そのうち大学に入学後人が倒れた場面に遭遇した275名を、他者の存在あり群242名、他者の存在なし群33名に分けて解析を行った。緊急事態認識の有無は、他者の存在あり群(179名[74.3%])と他者の存在なし群(26名[78.8%])で差はなかった(p=0.575)(表1)。何らかの救命行動を行った人の割合は、他者の存在なし群(23名[76.6%])に比べ、他者の存在あり群(107名[46.9%])で低かった(p=0.002)。大学入学以降のCPR講習会の受講経験は、他者の存在あり群(156名[64.7%])と他者の存在なし群(25名[75.8%])であった(p=0.210)。
【考察】大学生において、主要評価項目である緊急事態の認識には、他者の存在の有無は影響を与えなかった。その理由として、次の3つが考えられる。1点目は、人は突然人が倒れた場面に遭遇すると動揺することが報告されており、他者の存在の有無よりも心理的な動揺のほうが強く影響していたのかもしれない。2点目は、本研究の対象者のCPR講習会の受講歴が他者の存在あり群・なし群ともに高く、緊急事態認識に対する感度が両群とも高かったことが要因かもしれない。3点目は、他者の存在あり群では他のバイスタンダーが救命行動をとっている一連の様子を見て緊急事態認識に至った対象者がいた可能性があるが、倒れた人を見た瞬間に緊急事態を認識したかを今回のアンケートでは評価することができていなかった。副次評価項目である何らかの救命行動について、他者の存在あり群の方が他者の存在なし群よりも何らかの救命行動をとった人が少なかった理由は、傍観者効果が働いたのかもしれない。今後は対象者の基本属性をより広く設定し、本研究の結果の妥当性を確認することが必要である。
【方法】2019年4月8日から4月16日に行われた学生健康診断を受診したA大学2年生から4年生を対象に、横断研究を実施した。対象者の基本属性、倒れた人に遭遇した際の状況、CPRに関わる項目を含んだアンケートを健康診断会場で配布しその場で回収した。「遭遇時の他の人の有無」において、「はい」と回答したもの(他者の存在あり群)と、「なし」と回答したもの(他者の存在なし群)の2群に分けて、緊急事態の認識および救命行動に関して群間比較を行った。主要評価項目は、緊急事態の認識の有無とした。倫理的配慮として、回答は自由意志であり回答を行わないことで不利益がないことを口頭説明および掲示で周知した(倫理委員会承認番号:R0706)。
【結果】健康診断を受けた7,339名のうち4,979名(67.8%)からアンケートを回収した。そのうち大学に入学後人が倒れた場面に遭遇した275名を、他者の存在あり群242名、他者の存在なし群33名に分けて解析を行った。緊急事態認識の有無は、他者の存在あり群(179名[74.3%])と他者の存在なし群(26名[78.8%])で差はなかった(p=0.575)(表1)。何らかの救命行動を行った人の割合は、他者の存在なし群(23名[76.6%])に比べ、他者の存在あり群(107名[46.9%])で低かった(p=0.002)。大学入学以降のCPR講習会の受講経験は、他者の存在あり群(156名[64.7%])と他者の存在なし群(25名[75.8%])であった(p=0.210)。
【考察】大学生において、主要評価項目である緊急事態の認識には、他者の存在の有無は影響を与えなかった。その理由として、次の3つが考えられる。1点目は、人は突然人が倒れた場面に遭遇すると動揺することが報告されており、他者の存在の有無よりも心理的な動揺のほうが強く影響していたのかもしれない。2点目は、本研究の対象者のCPR講習会の受講歴が他者の存在あり群・なし群ともに高く、緊急事態認識に対する感度が両群とも高かったことが要因かもしれない。3点目は、他者の存在あり群では他のバイスタンダーが救命行動をとっている一連の様子を見て緊急事態認識に至った対象者がいた可能性があるが、倒れた人を見た瞬間に緊急事態を認識したかを今回のアンケートでは評価することができていなかった。副次評価項目である何らかの救命行動について、他者の存在あり群の方が他者の存在なし群よりも何らかの救命行動をとった人が少なかった理由は、傍観者効果が働いたのかもしれない。今後は対象者の基本属性をより広く設定し、本研究の結果の妥当性を確認することが必要である。