第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 5.重症患者看護②

[OD502] 5.重症患者看護②

[OD502-01] 人工呼吸器使用中の患者に対する下気道の適正な加湿環境の維持に向けたケアとその効果について

山田 君代1、○西谷 稜介1 (1. 医療法人 渡辺医学会 桜橋渡辺病院)

Keywords:人工呼吸器回路断熱コーティング、加温加湿器使用基準、痰粘稠度評価尺度

<序論>
 人工気道を介した人工呼吸器使用中の患者は、生理的な加湿機能が低下するため、人工的な加湿が必要である。その手段として加温加湿器があるが、回路内結露が生じやすく、誤嚥リスクを高めることが懸念される。そこで今回、下気道の適正な加湿環境の維持を目的として、痰の粘性度の評価尺度を明確にしたうえで加温加湿器の使用基準を設定し、さらに加温加湿器使用中の回路内結露の予防に向けたケアを実施した。その結果、一定の効果を認めたのでここに報告する。
<方法>
 急性大動脈解離の手術後で連日38度以上の高熱がある人工呼吸器管理中の1事例(73歳、男性)に以下のケアを実施した。すなわち、下気道の適正な加湿環境の維持に向けたケアとして、①痰粘稠度の評価尺度の開発、②加温加湿器の使用基準の明確化、③加温加湿器使用中の回路内結露の予防を行った。4/29~7/29の3か月間で①から③のシステム開発を行った。まず①では先行文献の「喀痰粘調度スケール」の「粘調度低い」の部分を「チューブ内に痰が残存するか否か」でさらに2つに細分化し、4段階のスケールとした。次に②③に関しては、加温加湿器の使用および回路への断熱コーティング実施の開始・中止を判断できるフローチャートを作成した(図参照)。そして、断熱コーティングは次に示す1から5までの方法で実施した。1.アルミホイルを吸気および呼気回路の口元フレキシブルチューブ手前までの長さ程度にカットする、2.上記のアルミホイルを吸気および呼気回路に巻く、3.アルミホイルの剥離を予防するためにその上から食品用ラップフィルムでコーティングする、4.食品用ラップフィルムを固定するために10㎝程度の間隔でセロハンテープを巻く、5.口元のフレキシブルチューブは結露の貯まりや痰の吹き出しなどが観察しやすいようにアルミホイルは使わず食品用ラップフィルムを5周程度巻く。ケア前後の回路内の結露によって生じた水分量と痰の性状変化を評価指標として、中枢温、室温、空調設定が統一された連続した6時間でその効果を判断した。また、断熱コーティングの実用性については、コーティングする作業時間を評価指標とした。なお、研究に先立ち病院倫理委員会の承認を得た
<結果>
 対象患者の痰粘稠度スコアはケア前3であったが、②③に基づいて加温加湿器の使用および回路への断熱コーティングを行った結果、スコアは1に移行した。また、回路内の結露は断熱コーティング前後で19ml/hrから9ml/hrと約50%の減少を認めた。さらに断熱コーティングの作業時間は初回経験者で8分であった。
<考察>
 本事例のように、クリティカルケア領域における患者は体温異常を呈することがあり、その状況では室温と回路内温度の較差が増大する。そのため、回路内結露が生じやすく、結露による誤嚥が人工呼吸器関連肺炎の重篤なリスクファクターとなりうる。そこで、断熱コーティングによる結露予防に努める必要がある。本研究の①により、痰の粘調度の評価が客観化された。また、②③によって、痰の至適粘調度の調整と結露による誤嚥予防を図ることができた。さらに今回の断熱コーティングの方法は安価で簡易に実施できるため、実用性が高いと考えられる。以上の結果を踏まえて、本ケアの標準化に努め、その成果判定に繋げたい。
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