第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 9.医療安全②

[OD902] 9.医療安全②

[OD902-02] 大学病院における迅速対応システム(Rapid Response System:RRS)の6年間の現状分析

○堀 智恵1 (1. 九州大学病院)

Keywords:緊急対応システム、病院死亡率、勤務時間帯

【目的】
 入院患者の緊急時における迅速対応システム(RRS)は、病院死亡や予期せぬ死亡を減少するなどのエビデンスが海外で確立しており、導入が広がっている。本邦においても2008年以降、多くの病院でRRSの導入が広がった。しかしながら、本邦におけるRRSについてのエビデンスは少ない。本研究ではA大学病院におけるRRS導入後の6年間の現状を調査するとともに、RRS要請患者の特徴や転帰について明らかにする。
【方法】
 対象は、2012年4月から2020年3月までの調査期間中に、A大学病院入院中に緊急招集を要請した患者293名及びRRS要請患者487名とした。アウトカムは、RRS要請患者の要請後24時間以内の死亡と要請後30日以内の死亡とし、RRS要請時の要請理由、要請時間帯との関連を評価した。統計学的手法としては、要請理由カテゴリー別の要請後24時間以内の死亡、要請後30日以内の死亡の頻度を比較し、ロジスティック回帰分析を用いて、要請理由別のアウトカムのオッズ比(95%信頼区間)を求めた。調整モデルには、性、年齢、要請時間帯、発見から要請までの時間カテゴリーを用いた。より重篤な指標と考えられる要請理由カテゴリーについては、その理由を多く有することがアウトカムと関連するかについて検討した。また、要請時間帯別の要請後24時間以内死亡、要請後30日以内死亡との関連についても検討した。解析にはJMP pro15(SAS Institute Inc,Cary,NC)を用い、統計学的な有意水準は5%とした。
【倫理的配慮】
 九州大学医系地区部局臨床研究倫理審査委員会の承認を得た。研究対象者に対しては、個人が特定されないこと、また不利益を回避するための配慮を実施した。
【結果】
 RRS要請件数は調査期間中に年間179件へ増加し、病院死亡率は2012年度の1.1%から2019年度0.83%へ減少した。6つの要請理由カテゴリーの頻度は、「SPO₂低下」が58.5%、「意識悪化」が40.9%、「血圧異常」が39.0%、「脈拍数異常」31.4%、「呼吸数異常」27.7%、「その他」41.5%であった。このうち、「意識悪化」、「SPO₂低下」、「血圧異常」は要請後24時間以内の死亡または要請後30日以内の死亡と関連していた。要請後30日以内の死亡のオッズ比[95%信頼区間]は、「SpO2低下」が2.55[1.51-4.29]、「意識悪化」が2.46[1.55-3.91]で、それぞれ有意に上昇した(表1)。またこの3つの要請理由カテゴリーを多く有すると、死亡のリスクも上昇した。日勤帯と比べた深夜帯の要請後30日以内の死亡のリスクは、1.83[1.08-3.08]と有意に上昇した。3つの要請理由カテゴリーの全てを有する割合は深夜帯が最も多かった。一方で、要請時間帯別の発生から要請までの時間カテゴリーでは、日勤帯では21.8%が即時に要請しているのに対し、深夜帯では11.0%であった。
【考察】
A大学病院においてRRS要請件数は増加し、病院死亡率は漸減していた。病院死亡率は1%前後であり多施設と比較しても低く、要請件数もこれまでの研究報告と比べると少ない。そのためRRSの導入効果があったとはいえない。要請理由カテゴリー「意識悪化」、「SpO2低下」、「血圧異常」を有すると死亡リスクが上昇することから、患者急変を発見するための予見と、発見後の迅速な対応が必要であることが示唆された。また、日勤帯に比べると深夜帯の死亡のリスクが上昇し、深夜帯では発生から要請までに時間を要していた。
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