2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

R1: Characterization and description of minerals (Joint Session with The Gemmological Society of Japan)

Thu. Sep 12, 2024 10:00 AM - 12:00 PM ES024 (Higashiyama Campus)

Chairperson:Masanori Kurosawa, Hiroshi Kitawaki

11:15 AM - 11:30 AM

[R1-05] Blue Sapphire from Australia and its origin

*Kentaro Emori1, Hiroshi Kitawaki1 (1. Central Gem Laboratory)

Keywords:LA-ICP-MS, corundum, origin determination, Australia

サファイアは歴史的に最も好まれてきたカラー・ストーンの一つである。現在でもサファイアとルビーを合わせたコランダムは、世界のカラー・ストーン市場に流通する宝石の1/3~1/2を占めると言われている。また、宝石の原産地は、歴史的に認知度の高い地域はブランドとして宝石に付加価値を与えるだけでなく、昨今のトレーサビリティなどの社会的欲求や消費者の知的好奇心を満たす不可欠な情報となっている。
 筆者らは2015年の本会においてLA-ICP-MSを用いた宝石コランダムの原産地鑑別についての報告を行った。その後も研究を継続し、新たな原産地のアップデートを行っている。昨年はグリーンランド産ルビー、アメリカ合衆国モンタナ産ブルー・サファイアについて報告したが、今回は、オーストラリア産サファイアについて報告する。
 オーストラリアでは1850年頃のゴールドラッシュで最初にサファイアが発見されており、大陸東部のアルカリ玄武岩噴出地域において3か所の重要な採掘地がある。ニューサウスウェールズ州のNew England Fields、クイーンズランド州のAnakie Fields およびクイーンズランド州北部のLava Plaines である。1800年代後半頃はロシアからの出稼ぎ労働者やドイツからの宝石商人らが買い付けを行い、一部はロシア皇帝一族に献上され、多くはロシアを初めとするヨーロッパの上流階級に供給されていた。その後、第一次大戦が勃発し、帝政ロシアの凋落により、オーストラリアでの採掘は実質的に停止した。その後、1960年代後半にタイの宝石商人が大挙して買い付けに訪れ、大量の原石を自国に持ち帰って加熱処理を行い、世界の宝石市場に供給した。オーストラリア産のサファイアは玄武岩関連起源で殆どが暗い色調であるため、タイの技術による加熱処理を施す必要があった。1970~1980年代には全世界のブルー・サファイアの生産量の70%近くがオーストラリア産であったと言われている。当時、タイのディーラーにより、品質の良いものはスリランカ産やタイ/カンボジア産として販売され、黒くて質の悪いものがオーストラリア産として供給されていた。そのためオーストラリア産には低品質のイメージが付きまとっていたが、近年はオーストラリアのディーラーが自国のサファイアをプロモートし、世界の宝石市場に供給している。日本国内においては、近年新たに市場供給されているものだけでなく、過去にジュエリーとして使用されていた還流品のサファイアにオーストラリア産が多く含まれており、オーストラリア産サファイアの原産地鑑別は非常に重要なものとなっている。
 本研究では、日本国内にもっとも多く供給されたと思われるクイーンズランド州Anakie Fields産サファイア30点を用いた。うち20点はファセットカットされており、10点は原石の状態であった。色はイエローグリーン、ブルーグリーン、ブルー、イエローである。標準的な宝石学的検査に加え、分析にはフーリエ変換型赤外分光分析装置(日本分光FT/IR4100 )、紫外可視分光光度計(V650)、LA-ICP-MS (LAとしてESI NWR213、ICP-MSとしてAgilent 7900rb)を用いて分析を行った。
 オーストラリア産サファイアの包有物は他の玄武岩関連起源のサファイアと類似した特徴を示し、殆どは加熱処理が施されているため、原産地鑑別の手助けとなるケースは少ない。時折パイロクロアの結晶が見られ、カンボジア産の特徴とされるパイロクロアは赤味が強いのに対し、オーストラリア産は概して橙色である。LA-ICP-MS分析の結果、微量元素組成は玄武岩関連起源のブルー・サファイアの特徴と一致する。玄武岩関連起源のブルー・サファイアとしてはタイ、カンボジア、ナイジェリアといった原産地がよく知られている。これらの産地と比較し、オーストラリア産ブルー・サファイアはMg、Ti、Vの量は同レベルを含有するが、FeとGaの含有量が非常に高いという特徴があることが分かった。
 LA-ICP-MS法を用いた微量元素測定のデータは一部がオーバーラップするが、オーストラリア産サファイアは比較的特徴があり、詳細な内部特徴の観察や標準的な宝石学特性を併用し相互補充的に用いことで原産地鑑別の精度を向上させることができる。