11:30 AM - 11:45 AM
[R1-06] Emerald origin characteristics and problems in origin determination
Keywords:Emerald, Origin determination, FTIR Spectrum, UV-Vis-NIR Spectrum, LA-ICP-MS
エメラルドはベリル(Be3Al2Si6O18)の一種であり、Al3+を置換するCr3+やV3+によって鮮やかな緑色を呈する。古くから貴重な宝石として認識され、16世紀以降コロンビア産の高品質のエメラルドが最も高く評価されている。近年では、世界各地から品質の良いエメラルドが産出するようになり、トレーサビリティの観点からもエメラルドの原産地鑑別の重要性が急速に高まっている。
エメラルドの原産地鑑別についてはこれまで複数の先行研究があり、いくつかの分類法が提唱されている。例えば、S. Saeseaw et al. (2019)はエメラルドの形成環境と宝石学的特徴によって、エメラルドを熱水/変成型(以下熱水型と略す)と片岩ホスト/マグマ型(以下片岩型と略す)の2種類に分類した。世界中のエメラルドの大多数は片岩型であり(例えばザンビア・カフブ地域、ブラジル、ロシアなど)、Beを含有する花崗岩マグマがCrを含有する苦鉄質岩に侵入することでエメラルドを形成する。一方、熱水型エメラルドに属する産地は比較的少なく、コロンビアがその代表である。熱水型エメラルドの形成は、熱水による岩石内部の元素の移動に起因する。エメラルドの形成過程の違いはそれぞれに異なる諸特徴を生じ、原産地鑑別の重要な手がかりとなる。
本発表では主要な宝石エメラルドの原産地特徴と筆者らが採用している原産地鑑別の手法を紹介し、新たに明らかになった問題点についても言及する。本研究にはコロンビア、ザンビア、ブラジル、ロシア、アフガニスタン、パキスタン、エチオピアなど主要10ヶ国の産地のエメラルド合計284石を用い、宝石顕微鏡による内部特徴の観察、屈折率測定、赤外吸収スペクトルおよび紫外-可視吸収スペクトルの測定、LA-ICP-MSによる分析を行った。
国内での流通量が最も多いコロンビア産エメラルドは、熱水型に属し、他に多く存在する片岩型エメラルドに比べ、いくつか際立った特徴がある。例えば、ギザギザとした輪郭をもつキャビティ中に液体と気泡とNaCl結晶を含む三相包有物が頻度高く観察される。これは、形成時に取り込んだ熱水の性質に起因している。また、アルカリ金属と鉄の含有量が低いことにより、吸収スペクトルにも特徴があらわれる:赤外スペクトルに5447 cm-1付近の金属イオンに影響されていないH2Oの吸収が見られる;紫外可視スペクトルにFe2+による830 nm中心の吸収がほぼ認められない。
しかし、これらの特徴は他の熱水型の産地(例えばアフガニスタンとザンビア・ムサカシ地域)の石にもしばしば観察されている。さらに、本研究において図1に示すように、コロンビア産エメラルドにも明瞭な830 nm中心の吸収を示すものもあることがわかった。このように宝石学的な諸特徴が類似する場合にもLA-ICP-MSによる微量元素の分析が極めて有効であることがあらためて確認できた。
また、同じ原産国であっても採掘される場所や時期により得られる分析結果が異なることもある。例えば、現在国内に流通しているブラジル産エメラルドは主にミナス・ジェライス州産であるが、過去にバイーア州産のものも多く流通していた。両者とも片岩型であるが、それぞれの微量元素に特徴が見られた。しかし、バイーア州で最近採掘されたとされるエメラルドは、過去のものに見られなかった特徴を示し、むしろザンビア産に近似するものであった。このような場合においてもLA-ICP-MSによる微量元素の分析と線形判別分析による解析が極めて有効であることがわかった。
このように、明らかなコロンビアの諸特徴を示すもの以外のエメラルドについては原産地の決定をサポートするために微量元素の正確なデータが常に必要である。エメラルドの原産地については新たな産地が発見されるだけでなく、過去に流通したものについても精通しておく必要があり、データベースも常に更新しておくことが極めて重要である。
エメラルドの原産地鑑別についてはこれまで複数の先行研究があり、いくつかの分類法が提唱されている。例えば、S. Saeseaw et al. (2019)はエメラルドの形成環境と宝石学的特徴によって、エメラルドを熱水/変成型(以下熱水型と略す)と片岩ホスト/マグマ型(以下片岩型と略す)の2種類に分類した。世界中のエメラルドの大多数は片岩型であり(例えばザンビア・カフブ地域、ブラジル、ロシアなど)、Beを含有する花崗岩マグマがCrを含有する苦鉄質岩に侵入することでエメラルドを形成する。一方、熱水型エメラルドに属する産地は比較的少なく、コロンビアがその代表である。熱水型エメラルドの形成は、熱水による岩石内部の元素の移動に起因する。エメラルドの形成過程の違いはそれぞれに異なる諸特徴を生じ、原産地鑑別の重要な手がかりとなる。
本発表では主要な宝石エメラルドの原産地特徴と筆者らが採用している原産地鑑別の手法を紹介し、新たに明らかになった問題点についても言及する。本研究にはコロンビア、ザンビア、ブラジル、ロシア、アフガニスタン、パキスタン、エチオピアなど主要10ヶ国の産地のエメラルド合計284石を用い、宝石顕微鏡による内部特徴の観察、屈折率測定、赤外吸収スペクトルおよび紫外-可視吸収スペクトルの測定、LA-ICP-MSによる分析を行った。
国内での流通量が最も多いコロンビア産エメラルドは、熱水型に属し、他に多く存在する片岩型エメラルドに比べ、いくつか際立った特徴がある。例えば、ギザギザとした輪郭をもつキャビティ中に液体と気泡とNaCl結晶を含む三相包有物が頻度高く観察される。これは、形成時に取り込んだ熱水の性質に起因している。また、アルカリ金属と鉄の含有量が低いことにより、吸収スペクトルにも特徴があらわれる:赤外スペクトルに5447 cm-1付近の金属イオンに影響されていないH2Oの吸収が見られる;紫外可視スペクトルにFe2+による830 nm中心の吸収がほぼ認められない。
しかし、これらの特徴は他の熱水型の産地(例えばアフガニスタンとザンビア・ムサカシ地域)の石にもしばしば観察されている。さらに、本研究において図1に示すように、コロンビア産エメラルドにも明瞭な830 nm中心の吸収を示すものもあることがわかった。このように宝石学的な諸特徴が類似する場合にもLA-ICP-MSによる微量元素の分析が極めて有効であることがあらためて確認できた。
また、同じ原産国であっても採掘される場所や時期により得られる分析結果が異なることもある。例えば、現在国内に流通しているブラジル産エメラルドは主にミナス・ジェライス州産であるが、過去にバイーア州産のものも多く流通していた。両者とも片岩型であるが、それぞれの微量元素に特徴が見られた。しかし、バイーア州で最近採掘されたとされるエメラルドは、過去のものに見られなかった特徴を示し、むしろザンビア産に近似するものであった。このような場合においてもLA-ICP-MSによる微量元素の分析と線形判別分析による解析が極めて有効であることがわかった。
このように、明らかなコロンビアの諸特徴を示すもの以外のエメラルドについては原産地の決定をサポートするために微量元素の正確なデータが常に必要である。エメラルドの原産地については新たな産地が発見されるだけでなく、過去に流通したものについても精通しておく必要があり、データベースも常に更新しておくことが極めて重要である。