一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2024年9月12日(木) 14:00 〜 15:15 ES024 (東山キャンパス)

座長:門馬 綱一(国立科学博物館)、白勢 洋平(愛媛大学)

15:00 〜 15:15

[R1-12] 静岡県河津鉱山から産出したゼーマン石の2価鉄置換体について

*門馬 綱一1、Missen Owen2、Mills Stuart 3、宮脇 律郎1、松原 聰1、大谷 栄治4、鎌田 誠司5、小澤 信4 (1. 国立科学博物館、2. タスマニア大学、3. The Arkenstone、4. 東北大学、5. (株)アド・サイエンス)

キーワード:ゼーマン石、欽一石、河津鉱山

はじめに
静岡県下田市の河津鉱山(別名、蓮台寺鉱山)からはテルルを含む鉱物を数多く産出し、新鉱物として河津鉱(Bi2Te2Se)と欽一石が記載されている。欽一石の原記載では(Fe2+1.13Mg0.47Zn0.43Mn2+0.17)Σ2.20(Te2.97Se0.03)Σ3.00O9.00(H1.38Na0.22)Σ1.60・3.2H2Oなる組成が報告され、これは当時のゼーマン石の定義に照らし合わせて、その鉄置換体に相当するとして新種に認定された。ところがその後、ゼーマン石の理想化学組成としてMg0.5[ZnFe3+(TeO3)3]・4.5H2Oが与えられ、電荷バランスの観点から2価の亜鉛と3価の鉄はどちらも本質的成分であることが明らかになった。鉄の一部を3価として原記載の欽一石の組成を再計算すると、2価イオンとしては亜鉛が鉄を上回るため、ゼーマン石の組成範囲にとどまる。しかし、R.Miletich (1995)はゼーマン石の再検討を行う中で、河津鉱山産の“欽一石”についても検討を行い、2価のイオンとしてマンガンが卓越する分析結果が得られたため、これを欽一石として扱い、その端成分組成としてMg0.5[MnFe3+(TeO3)3]・4.5H2Oが与えられた。今回、我々は河津鉱山産のゼーマン石グループ鉱物を分析し、その中に2価鉄が亜鉛を上回る部位を見出したので、報告する。
試料および実験
試料は国立科学博物館の収蔵標本(NSM-M41022)で、石英の空隙に暗褐色の六角長柱状結晶が放射状に集合したものである。化学組成分析は電子線ダメージを避けるため、波長分散型(WDS)ではなくエネルギー分散型X線分光検出器(EDS)を備えた走査電子顕微鏡(JEOL JSM-6610)を用いて行った。含水量はEDS分析値の100%からの差分により見積もった。結晶によっては中心部と外周部とで組成変化が見られたため、一定組成の部分のみを使用して結晶構造解析をするべく、収束イオンビーム(FIB)を用いて試料の切り出しを行ったが、結果的に用いた試料の組成は均質であった。単結晶X線回折実験は回転対陰極と多層膜X線集光ミラー(VariMax)を備えたRigaku Synergy Customを用いた。
結果
4点の分析値の平均から得られた組成式はMg0.40(Fe2+0.54Zn0.33Cu0.18Mn0.05)Σ1.10Fe3+1.00(Te2.92P0.06O9)・4.12H2Oであり、ゼーマン石および欽一石の鉄置換体に相当する。同一試料について、単結晶X線回折による結晶構造解析を行ったところ、空間群P63 (またはP63/m)、格子定数a = 9.37765(11), c = 7.58379(9), V = 577.570(15)、解析の信頼度R1 = 1.56%との結果が得られ、ゼーマン石、欽一石と同形構造であることが確認された。チャネル中の陽イオン分布、およびフレームワークのMサイトの結合距離から、真の対称性はP63/mではなくP63に低下していることが示唆された。