一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R1-P-01] SEM-EDSによる輝沸石の化学定量分析 ー ビームダメージに弱い沸石の化学組成をどう正確に見積もるか?

「発表賞エントリー」

*石原 篤1、大藤 弘明1 (1. 東北大学)

キーワード:沸石、SEM-EDS、輝沸石

沸石の化学組成は古くは重量法や滴定法といった湿式分析で見積もられてきたが、近年では局所化学定量分析の定番である電子マイクロプローブ分析(EPMA)法による分析も行われている。しかし、EPMA分析では細く絞った電子ビームを微小領域に照射し続けるため、脱水による構造改変や元素の蒸発などの試料ダメージの可能性を孕んでいる。特に、沸石はビーム照射による表面ダメージが大きい材料の一つであり、信頼できる化学定量値を得るためにはビームダメージを抑える必要がある(Campbell et al., 2016)。本研究では、より簡便な局所定量分析として広く普及しているSEM-EDSを用いた沸石定量分析を行い、電子ビームの照射モード(点分析、面分析)や照射電流値、照射時間などを変化させ、試料表面のダメージと分析値の評価を行った。分析中にビームを局所(ターゲット)に固定する点分析で測定を行った場合、ビーム照射位置周辺でチャージアップが生じ、その周囲には輝沸石の(010)に平行に細長く伸びたふくらみが観察された。これはビーム照射によって試料の局所が急激に加熱され、分析点直下で輝沸石の結晶構造が一部破壊され、脱水が生じたためと推測される。この際、構成元素の一部も高真空の試料室中へ蒸発するため、定量値は大きく影響を受け、分析精度の低下が認められ、特にAlの定量値の減少が顕著であった。これは結晶構造中でAlを多く配位するサイトではAl-O-Al結合の破壊が優先的に進むことを反映している可能性がある。このような試料表面のビームダメージは、照射時間に比例して大きくなるが、照射時間を短くするほど今度はX線カウントが少なくなるため、S/N(シグナル-ノイズ)比が低下し、定量精度(再現性)は悪くなる。そのため、試料表面へのダメージを抑えながら定量分析に十分なX線カウントを得ることが不可欠となる。そこで、試料表面で電子線を走査しながら測定を行う面分析(ラスタースキャン)モードによる分析を試みた。ラスタースキャンでは各点当たりの照射時間は各段に短くなるため、ビームダメージは大幅に軽減されると期待される(吉原, 2000; Ohfuji and Yamamoto, 2015)。倍率を色々変えて分析を行ったところ、観察倍率5,000倍(領域サイズ:16 ×24 μm)以下の低倍率では試料表面のダメージは認められなかった。それ以上高倍(~40,000倍)の場合、分析後に試料表面にわずかなブライトネス/コントラスト変化が生じるが、沸石の化学組成の定量精度の評価に用いられる指標E *の値は±10%の範囲内に収まっており、質量濃度のトータルも90%前後であることから、十分に信頼できる分析値が得られると判断できる。さらに最近のEDS解析ソフトAZtec(オックスフォード・インストゥルメンツ社)では、マッピング分析やライン分析データの一部から領域を指定してスペクトルを再構築する機能が備わっており、これを利用することによって実際のスキャン領域よりもはるかに小さい領域(~数μm)の化学組成を正確に見積もることも可能である。
R1-P-01