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[R1-P-03] 電子線後方散乱回折法とエネルギー分散型X線分光法の同時分析による斜長石の変形と組成変化履歴の解明
「発表賞エントリー」
キーワード:斜長石、再結晶、電子線後方散乱回折、エネルギー分散型X線分光
斜長石は、下部地殻の主要構成鉱物であり、その変形と組成変化は下部地殻のダイナミクスに大きな影響を与える。従来の研究は、走査型電子顕微鏡(SEM)-電子線後方散乱回折(EBSD)による結晶方位解析や、エネルギー分散型X線分光法(EDS)などの組成分析を独立に行い、その結果を組み合わせて、斜長石の変形と組成変化の履歴を解明してきた。しかし、結晶方位と化学組成を独立に分析した場合、それらの関係が不明瞭になるという欠点がある。そのため、例えば斜長石の亜粒子と組成分布の関係が見過ごされていた可能性がある。SEM-EBSD-EDS法は、鉱物の結晶方位と化学組成の情報を直接結びつけられる、有用な手法である。この手法は、似たような結晶構造を持つ材料を区別する手法として、主に金属学の分野で利用されてきた。一方で、鉱物を対象にした実例はほとんどなく、実用的な解析手法は確立されていない。本研究では、海洋下部地殻から採取された変形ハンレイ岩中の斜長石について、ポーフィロクラストとその周囲のマトリクスに着目する。そして、SEM-EBSD-EDS分析によって得られた結晶方位と化学組成データについて、MATLAB® MTEX Toolboxを用いた解析を行い、斜長石の変形と組成変化の履歴について議論する。SEM-EBSD-EDS分析は、XZ面で切り出して研磨した薄片試料を対象に、EBSD検出器を挿れた状態で、EDS検出器の挿入位置を検出感度が最大となるように調整して行った。MTEX Toolboxを用いた解析では、斜長石におけるアノーサイト(An)値(Ca/[Ca+Na])のEDS Mapを作成した。また、ポーフィロクラストの結晶方位に対する各粒子の方位差を示したMis2Ref Mapを作成した。ポーフィロクラスト周りのマトリクスのAn値は、ポーフィロクラストと同様の値を示した。また、ポーフィロクラストとその周りのマトリクスの結晶方位差は、40°以内と小さい値を示した。従って、斜長石は化学組成の変化を伴わない亜粒回転再結晶を経験したと考えられる。ポーフィロクラストの内部には、亜粒子を横切る脈状の組織が存在し、そのAn値はポーフィロクラストより低い値を示した。従って、斜長石は、亜粒回転再結晶を経験した後に、脈の貫入に伴う組成変化を経験したと考えられる。