12:30 PM - 2:00 PM
[R1-P-12] Hydroxylchondrodite from Ogouchi ,Hinokage, Nisiusuki,Miyazaki Prefecture,Japan
Keywords:Hydroxylchondrodite, Humite group, Phlogopite, Skarn, Ogouchi Hinokage Nisiusuki Miyazaki Prefecture
1.はじめに
水酸コンドロ石(hydroxylchondrodite)は,ロシアのPekov et al.(2011)によって発見されたマグネシウムのケイ酸塩鉱物でヒューム石グループに属する.化学組成はコンドロ石Mg5(SiO4)2F2のFをOHで置換したMg5(SiO4)2(OH)2で,結晶系は単斜晶系(空間群P21/c)に属する.
宮崎県西臼杵郡日之影町北部にはスカルン鉱物を伴う金属鉱床があり,見立鉱山など,かつて多数が採掘された(足立,1996).その中で小河内・千軒平地区には,岩戸銅山(小河内鉱山)・千軒平鉱山があり,ベスブ石(宮久・足立,1977),フォンセン石(皆川・足立,1990),ハルス石(大越ら,2012)等が報告されている.現在,我々はこの地区の鉱物調査を行っており,その中でスカルン鉱物を伴う小規模な結晶質石灰岩露頭近くから塊状ないし片状の白色の透輝石,褐色ないし白色の金雲母から成る幅1.5 m程度の露頭を確認しその構成鉱物を調査した.その中で,日本新産となる水酸コンドロ石を同定したので,随伴鉱物と共に鉱物学的性質を報告する.
2.試料および実験
試料は2023年~2024年の現地調査によって得た.化学組成は走査電子顕微鏡(JEOL JSM-7001F,Oxford EDS)とEPMA(JEOL JXA-8530F),X線回折パターンはXRD(Rigaku Ultima IV,RINT RAPID II)を用いて検討した.
3.結果
水酸コンドロ石は,主に透輝石からなる白色塊状岩石中に縞状に配列する金雲母に伴われ(図1a,b),色は橙色から赤橙色で,褐色の金雲母中に径1-4 cmの粒状集合や白色の透輝石と共に数mm大の粒状として産出する.粗粒の金雲母結晶(2 cm程度)が濃集する部分に水酸コンドロ石が多く含まれる傾向があった.水酸コンドロ石と共生する透輝石は0.1-0.3 mmであるが,図1aの淡紫色部は非常に微細な透輝石,クリノクロア,金雲母からなる.薄片と反射電子像観察から,金雲母に伴い水酸コンドロ石および灰電気石がある(図1c,d).そのほかの随伴鉱物として木下雲母,タルク,フッ素パーガス閃石,チタン石,ジルコノ石やフッ素燐灰石を確認した.また,この岩石中に1-2 cmの晶洞があり,無色透明の0.1 mm程度の単柱状の透輝石,灰菱沸石,灰レビ沸石,ベスブ石結晶も観察できた.小河内産の水酸コンドロ石のX線回折パターンは原記載のものとよく一致し,格子定数はa = 7.8525(11),b = 4.7245(7),c = 10.2586(14)Å,β = 109.113°(6),V = 359.61(9)Å3となり原記載の値に近い.また,EPMAによる実験式は(Mg4.69Fe0.20Ti0.04Ca0.01)Σ4.94Si2.01O8(OH1.37F0.63)Σ2.00が得られた.OH/(F+OH)= 0.685で,OHがFより卓越しており水酸コンドロ石となる.また,原産地標本と化学組成を比較すると小河内産水酸コンドロ石はFeO=4.23wt%,原産地は1.51wt%で,Feが多いが,Mg値(Mg/(Mg+Fe+Ti+Ca))で見ると小河内産は0.949,原産地は0.922,Ti値(Ti/(Mg+Fe+Ti+Ca))で見ると小河内産は0.008,原産地は0.063となり原産地のものはTiを多く含み,小河内産がより端成分に近い.また,本産地の透輝石の化学組成は,FeO = 0.9~1.5wt%でFeが非常に少ない特徴があり,これは金雲母(粗粒結晶でFeO=1wt%程度),クリノクロア(FeO=1wt%以下)も同様である.また,粗粒金雲母の化学組成は木下雲母成分を固溶した組成累帯構造を示す。粗粒結晶の外側の一部は木下雲母の組成を示し,形成末期にBa,Alが濃集している.本産地は飛騨神岡産のコンドロ石の産状(野沢,1952)と一致するところもあり,類似した熱水による形成過程が推定されるが,本産地では炭酸塩鉱物が認められず,原岩となる岩石種の違いがある.小河内・千軒平地区のスカルンには鉄を含む鉱物が多いが,今回調査した露頭の鉱物中にはFeが少なく,また,Baの濃集もありこの岩石を形成した熱水の特異な性質を示している.
引用文献
Pekov et al Doklady Earth Sciences,436,230–236.
足立富男(1996)地学研究, 45-4, 221-242.
宮久三千年・足立富男(1977)鉱物採集の旅九州南部編p81-82 築地書館.
皆川鉄雄・足立富男(1990)地学研究,39,91‐95.
大越悠数ら(2012)岩鉱,41,61‐66.
野沢保(1952)岩鉱,36,176-185
水酸コンドロ石(hydroxylchondrodite)は,ロシアのPekov et al.(2011)によって発見されたマグネシウムのケイ酸塩鉱物でヒューム石グループに属する.化学組成はコンドロ石Mg5(SiO4)2F2のFをOHで置換したMg5(SiO4)2(OH)2で,結晶系は単斜晶系(空間群P21/c)に属する.
宮崎県西臼杵郡日之影町北部にはスカルン鉱物を伴う金属鉱床があり,見立鉱山など,かつて多数が採掘された(足立,1996).その中で小河内・千軒平地区には,岩戸銅山(小河内鉱山)・千軒平鉱山があり,ベスブ石(宮久・足立,1977),フォンセン石(皆川・足立,1990),ハルス石(大越ら,2012)等が報告されている.現在,我々はこの地区の鉱物調査を行っており,その中でスカルン鉱物を伴う小規模な結晶質石灰岩露頭近くから塊状ないし片状の白色の透輝石,褐色ないし白色の金雲母から成る幅1.5 m程度の露頭を確認しその構成鉱物を調査した.その中で,日本新産となる水酸コンドロ石を同定したので,随伴鉱物と共に鉱物学的性質を報告する.
2.試料および実験
試料は2023年~2024年の現地調査によって得た.化学組成は走査電子顕微鏡(JEOL JSM-7001F,Oxford EDS)とEPMA(JEOL JXA-8530F),X線回折パターンはXRD(Rigaku Ultima IV,RINT RAPID II)を用いて検討した.
3.結果
水酸コンドロ石は,主に透輝石からなる白色塊状岩石中に縞状に配列する金雲母に伴われ(図1a,b),色は橙色から赤橙色で,褐色の金雲母中に径1-4 cmの粒状集合や白色の透輝石と共に数mm大の粒状として産出する.粗粒の金雲母結晶(2 cm程度)が濃集する部分に水酸コンドロ石が多く含まれる傾向があった.水酸コンドロ石と共生する透輝石は0.1-0.3 mmであるが,図1aの淡紫色部は非常に微細な透輝石,クリノクロア,金雲母からなる.薄片と反射電子像観察から,金雲母に伴い水酸コンドロ石および灰電気石がある(図1c,d).そのほかの随伴鉱物として木下雲母,タルク,フッ素パーガス閃石,チタン石,ジルコノ石やフッ素燐灰石を確認した.また,この岩石中に1-2 cmの晶洞があり,無色透明の0.1 mm程度の単柱状の透輝石,灰菱沸石,灰レビ沸石,ベスブ石結晶も観察できた.小河内産の水酸コンドロ石のX線回折パターンは原記載のものとよく一致し,格子定数はa = 7.8525(11),b = 4.7245(7),c = 10.2586(14)Å,β = 109.113°(6),V = 359.61(9)Å3となり原記載の値に近い.また,EPMAによる実験式は(Mg4.69Fe0.20Ti0.04Ca0.01)Σ4.94Si2.01O8(OH1.37F0.63)Σ2.00が得られた.OH/(F+OH)= 0.685で,OHがFより卓越しており水酸コンドロ石となる.また,原産地標本と化学組成を比較すると小河内産水酸コンドロ石はFeO=4.23wt%,原産地は1.51wt%で,Feが多いが,Mg値(Mg/(Mg+Fe+Ti+Ca))で見ると小河内産は0.949,原産地は0.922,Ti値(Ti/(Mg+Fe+Ti+Ca))で見ると小河内産は0.008,原産地は0.063となり原産地のものはTiを多く含み,小河内産がより端成分に近い.また,本産地の透輝石の化学組成は,FeO = 0.9~1.5wt%でFeが非常に少ない特徴があり,これは金雲母(粗粒結晶でFeO=1wt%程度),クリノクロア(FeO=1wt%以下)も同様である.また,粗粒金雲母の化学組成は木下雲母成分を固溶した組成累帯構造を示す。粗粒結晶の外側の一部は木下雲母の組成を示し,形成末期にBa,Alが濃集している.本産地は飛騨神岡産のコンドロ石の産状(野沢,1952)と一致するところもあり,類似した熱水による形成過程が推定されるが,本産地では炭酸塩鉱物が認められず,原岩となる岩石種の違いがある.小河内・千軒平地区のスカルンには鉄を含む鉱物が多いが,今回調査した露頭の鉱物中にはFeが少なく,また,Baの濃集もありこの岩石を形成した熱水の特異な性質を示している.
引用文献
Pekov et al Doklady Earth Sciences,436,230–236.
足立富男(1996)地学研究, 45-4, 221-242.
宮久三千年・足立富男(1977)鉱物採集の旅九州南部編p81-82 築地書館.
皆川鉄雄・足立富男(1990)地学研究,39,91‐95.
大越悠数ら(2012)岩鉱,41,61‐66.
野沢保(1952)岩鉱,36,176-185