11:00 AM - 11:15 AM
[R2-08] Calorimetric constraint of cation disordering enthalpy in MgAl2O4 spinel
Keywords:spinel, cation disorder, calorimetry, enthalpy of disordering, thermodynamics
スピネル型酸化物AB2O4において、温度の上昇に伴って四面体型と八面体型の陽イオンサイト間で陽イオンAとBの交換の割合が大きくなることが一般的に知られている。その陽イオンサイト間における交換反応は (A)tet + [B]oct ⇌ (B)tet + [A]oct と表される。四面体サイトを占めるBイオンのモル分率をxとしたときの化学組成式は、(A1-xBx)[B2-xAx]O4となる。xは無秩序の程度と呼ばれ、x = 0のとき正スピネル構造、x = 1のとき逆スピネル構造となる。この交換反応において、x = 0の時の完全な正スピネル構造と、あるxの値を持つスピネル構造とのギブスエネルギー差が無秩序化のギブスエネルギーΔGD = ΔHD - TΔSDである。ここで、ΔHDおよびΔSDは、無秩序化のエンタルピーとエントロピーである。なお、ΔSDは完全ランダムを仮定した配置のエントロピーに等しいとする。このΔGDが最小となるところで熱力学的に平衡となることから、dΔGD/dx = dΔHD/dx -T(dΔSD/dx)= 0 よりxとTの関係式:
RTln[x2/(1-x)/(2-x)]=-dΔHD/dx (1)
が導かれる。これまでNMR測定や単結晶X線回折測定を用いて式(1) のxとTの関係を決定する研究がなされてきたが、測定試料のxが凍結された温度が不確実であったり、高温NMRではデータのばらつきが大きかったりしたため、未だに十分に制約がなされていない。本研究では、それらの研究とは異なり、式(1)中のΔHDを落下溶解熱量測定から決定することによx-T関係を熱力学的に求める手法を採る。昨年度はx = 0.23、0.30、0.35の3つのxにおいて測定データを報告した。ΔHDのx依存性をモデル化するためには、より広範囲にわたる様々なxでのデータを取得する必要があった。そこで、本研究では、さらに落下溶解熱測定により3つのデータを追加し、ΔHDのx依存性のモデル化について検討を行った。
合成MgAl2O4スピネルについて、873K、1173 K、または1473 Kでアニール後急冷した3種類の試料を準備した。それぞれについてリートベルト解析により酸素の原子座標パラメータuを決定し、Andreozzi and Princivalle (2002)によるx-u関係からxの値を求めた。落下溶解熱測定にはカルベー型高温微少熱量計を用いた。ペレット状に固めた約3 mgの試料を、室温の熱量計の外から978 Kの熱量計内に置かれたホウ酸鉛(2PbO·B2O3)溶媒に落下させ、落下溶解エンタルピー(ΔHd-s)を測定した。
873、1173、または1473 Kの各温度でアニールした試料のxは、リートベルト解析の結果から得られたuより、それぞれ0.20、0.23、0.32と決定された。落下溶解熱測定によるΔHd-sは、163.39±2.29 (x = 0.20)、162.66±2.52 (x = 0.23)、160.63±0.99 (x = 0.32) kJ/molであった。落下溶解熱測定の結果を昨年の報告値と併せてFig. 1に示す。測定誤差を考慮すると、xの変化に伴いΔHd-sはほぼ直線的に変化することがより明確になった。このことから、ΔHDをxの一次関数:
ΔHD=ΔHint x (2)
とすると、無秩序化の程度がxのスピネルの落下溶解エンタルピーは
ΔHd-s(x) =ΔHd-s(0) -ΔHint x (3)
と表せる。ここで、ΔHintは1 molの完全なMgAl2O4正スピネルを完全なAl(Mg,Al)O4逆スピネルにするために必要となるエンタルピーである。測定データに式(3)を用いて重み付けを適用した最小二乗フィットを行うと、ΔHd-s(x=0) =169.0(2.9) kJ/mol、ΔHint = 25.9(9.8) kJ/molが得られる。また、O‘Neill and Navrotsky (1983)では、理論的にΔHDをxの2次式
ΔHD (x) = αx + βx2 (4)
のモデルで取り扱うことができるとしている。ここで、 αと βは係数である。敢えてこのモデルを適用して
ΔHd-s(x) =ΔHd-s(0) -(αx + βx2) (5)
で最小二乗フィットを行うと、ΔHd-s(0) = 169.0(2.9) kJ/mol、α = 25.9(9.8) kJ/mol、β = -0.02(2.3) kJ/molが得られる。O‘Neill and Navrotsky (1983)によるとα≃-βとされているが、本研究の熱量測定からはβはαに比べてかなり小さな値となることが制約された。したがって、従来のスピネル型化合物の無秩序化のエンタルピーΔHDの熱力学モデルには、再考の余地がある。
RTln[x2/(1-x)/(2-x)]=-dΔHD/dx (1)
が導かれる。これまでNMR測定や単結晶X線回折測定を用いて式(1) のxとTの関係を決定する研究がなされてきたが、測定試料のxが凍結された温度が不確実であったり、高温NMRではデータのばらつきが大きかったりしたため、未だに十分に制約がなされていない。本研究では、それらの研究とは異なり、式(1)中のΔHDを落下溶解熱量測定から決定することによx-T関係を熱力学的に求める手法を採る。昨年度はx = 0.23、0.30、0.35の3つのxにおいて測定データを報告した。ΔHDのx依存性をモデル化するためには、より広範囲にわたる様々なxでのデータを取得する必要があった。そこで、本研究では、さらに落下溶解熱測定により3つのデータを追加し、ΔHDのx依存性のモデル化について検討を行った。
合成MgAl2O4スピネルについて、873K、1173 K、または1473 Kでアニール後急冷した3種類の試料を準備した。それぞれについてリートベルト解析により酸素の原子座標パラメータuを決定し、Andreozzi and Princivalle (2002)によるx-u関係からxの値を求めた。落下溶解熱測定にはカルベー型高温微少熱量計を用いた。ペレット状に固めた約3 mgの試料を、室温の熱量計の外から978 Kの熱量計内に置かれたホウ酸鉛(2PbO·B2O3)溶媒に落下させ、落下溶解エンタルピー(ΔHd-s)を測定した。
873、1173、または1473 Kの各温度でアニールした試料のxは、リートベルト解析の結果から得られたuより、それぞれ0.20、0.23、0.32と決定された。落下溶解熱測定によるΔHd-sは、163.39±2.29 (x = 0.20)、162.66±2.52 (x = 0.23)、160.63±0.99 (x = 0.32) kJ/molであった。落下溶解熱測定の結果を昨年の報告値と併せてFig. 1に示す。測定誤差を考慮すると、xの変化に伴いΔHd-sはほぼ直線的に変化することがより明確になった。このことから、ΔHDをxの一次関数:
ΔHD=ΔHint x (2)
とすると、無秩序化の程度がxのスピネルの落下溶解エンタルピーは
ΔHd-s(x) =ΔHd-s(0) -ΔHint x (3)
と表せる。ここで、ΔHintは1 molの完全なMgAl2O4正スピネルを完全なAl(Mg,Al)O4逆スピネルにするために必要となるエンタルピーである。測定データに式(3)を用いて重み付けを適用した最小二乗フィットを行うと、ΔHd-s(x=0) =169.0(2.9) kJ/mol、ΔHint = 25.9(9.8) kJ/molが得られる。また、O‘Neill and Navrotsky (1983)では、理論的にΔHDをxの2次式
ΔHD (x) = αx + βx2 (4)
のモデルで取り扱うことができるとしている。ここで、 αと βは係数である。敢えてこのモデルを適用して
ΔHd-s(x) =ΔHd-s(0) -(αx + βx2) (5)
で最小二乗フィットを行うと、ΔHd-s(0) = 169.0(2.9) kJ/mol、α = 25.9(9.8) kJ/mol、β = -0.02(2.3) kJ/molが得られる。O‘Neill and Navrotsky (1983)によるとα≃-βとされているが、本研究の熱量測定からはβはαに比べてかなり小さな値となることが制約された。したがって、従来のスピネル型化合物の無秩序化のエンタルピーΔHDの熱力学モデルには、再考の余地がある。