一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R2:結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

2024年9月14日(土) 14:00 〜 15:30 ES024 (東山キャンパス)

座長:小松 一生

14:45 〜 15:00

[R2-14] 木村石とロッカ石の結晶構造

*宮脇 律郎1、門馬 綱一1 (1. 国立科学博物館)

キーワード:木村石、ロッカ石、結晶構造

木村石[kimuraite-(Y) CaY2(CO3)4·6H2O] 1)とロッカ石2)[lokkaite-(Y) CaY4(CO3)7·9H2O]1)は希土類元素とカルシウムの含水炭酸塩鉱物で、その結晶格子からカルシウム層がテンゲル石[tengerite-(Y) Y2(CO3)3·2-3H2O]に見られる波板状構造の希土類層と積層している類縁の鉱物と推察されている3)。木村石の原記載論文では結晶構造は報告されず、プリセッションカメラや四軸自動回折計による単結晶X線回折データの消滅則から直方晶系のImm2、ImmmI222またはI212121の空間群が示されたに留まる。その後、湾曲型2次元検出器による単結晶X線回折データを用い、ラセミ体双晶モデルを導入し空間群I2cbで基本構造を決定し、同時に、ロッカ石についても空間群C2bmで基本構造を決定した4)R値はそれぞれ0.0389と0.0858と収斂したが、いくつかの回折線で、消滅則との矛盾など実測強度と構造モデルからの計算強度に不一致が見られるという問題が残った。
 今回、微弱ながらも消滅則に反して回折強度を示す反射を特に考慮し、空間群を見直しながら結晶構造を再検討した。消滅則から、木村石の空間群は直方晶系では原記載のとおりImm2、ImmmI222またはI212121となる。これらの空間群は、ミラー面、2回軸、2回らせん軸のどれかが3方向いずれにも存在するという高い対称性を持つ。このため、構造モデルの構築には大きな制約が生じる。そこで、メロヘドラル双晶に加え、複数の構造モデルが高い対称性に統計分布した平均構造も考慮して、特にカルシウム原子の配置に留意しながらモデル構築と精密化を進めた。その結果消滅則との矛盾なく空間群I222で、I2cbでの解析結果と同じ基調の結晶構造モデルを得た。
 一方、ロッカ石の原記載論文2)では消滅則に基づき、空間群にC222、Cmm2、CmmmCm2mが示されている。これらの空間群も高い対称性により構造モデルの構築に大きく制約する。木村石と同様に双晶モデルと平均構造を考慮してモデル構築と精密化を進めた。直方晶系C222で、消滅則との矛盾なく、C2bmの基本構造を基調とする構造モデルが得られたが、精密化を進めるには複雑な平均構造を解かなければならない壁に当たった。そこで、平均構造の基となる構造を探るため、単斜晶系の空間群Cmで解析を試み、精密化を進めた。
 木村石とロッカ石の結晶構造は、平坦なカルシウム層と波板状の希土類層の2層から構成されている(図)。木村石とロッカ石の波板状の希土類層はどちらもテンゲル石の希土類層と同じ構造で、いずれの希土類元素の席も9つの酸素原子に配位されている。希土類元素の配位多面体は炭酸イオンを介在して頂点の酸素原子を共有し連なっている。一方、カルシウム原子は平坦なカルシウム層の中央に位置するが、直上と直下の波板状の希土類層との相対位置に変位がある。この変位は、カルシウム近傍でカルシウムに配位する酸素や炭素の位置に影響していると見られる。
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R2-14