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[R2-P-01] PF BL-10Aの単結晶構造解析の新たな取り組みと現状について 〜X線異常散乱実験と高圧下その場単結晶X線回折実験
キーワード:X線異常散乱、高圧その場単結晶X線回折、放射光
放射光共同利用施設PFのBL-10Aの単結晶回折計の運用が開始されて40年強が経過し、この間、鉱物科学会関係者により、数多くの成果報告がなされてきた[1-4]。放射光の重要な活用方法の一つに、入射X線エネルギーの選択性が挙げられるが、回折実験としての活用は限定されている。一般に、X線回折強度を使用した構造解析では、周期律表上で隣り合う元素を直接区別することは困難である。特に、材料物質等では、周期律表で隣り合う遷移金属元素のイオン半径は類似し、アルミノ珪酸塩鉱物中の四面体席のように結合距離を利用して元素の存在比を推察することも難しい。目的元素の吸収端近傍で生じる異常散乱を有効活用する回折実験は、周期律表上で隣接する元素の区別に対して非常に強力なツールとなり得るが、国内の放射光施設では、異常散乱(AXS)実験を実施可能なビームラインはほとんどない。このような現状を踏まえ、今回BL-10Aが得意とするエネルギー領域(8 - 20 keV)でのAXS実験の効率化に取り組んだ。四軸回折計の装置制御および計測システムを刷新し、高精度のXAFS測定も可能とした。本報告では、BL-10Aの四軸回折計を活かした測定システムの改善・改良の詳細、そしてこれらのシステムを利用した最新の研究成果に関して報告する。 AXS実験では、我々のグループは、四面銅鉱におけるCu/Zn分布[5-6]、機能性単結晶素材CNGGのNbおよびGaの分布[7]、日立鉱におけるPb/Bi分布とその変調構造の可能性に関する研究を進めている。なお、BL-10Aでは、Fe/Co/Niなどの吸収端を活用した磁性体に対する回折実験が行われてきた[3]が、新たにPb LIII (13.044 keV) やCu K (8.940 keV), Zn K (9.660 keV), Ga K (9.234 keV), Nb K (16.520 keV)といった吸収端を活用したAXSを試みている。特にBL-10A開設当初に実施されたPb LIIIの吸収端近傍における異常散乱実験に関しては放射光ビームの安定性とそれに対応した実験データの収集方法や結晶自身の吸収効果といった検討課題が報告されている[4]。今回のシステム更新は、入射ビームの強度をモニタリングしており、指摘されていた検討課題に関しても解決可能と考え、検討を進めている。 高圧下その場単結晶X線回折実験では、圧力誘起相転移とこれに伴う変調構造の出現[6]が観察され、この精査にBL-10Aの四軸回折計の逆空間スキャンが活かされた。現在、四面銅鉱の高圧下その場観察実験に取り組んでいる。参考文献[1] 佐々木聡 (1997) 鉱物学雑誌, 19, 377-385. [2] 佐々木聡 (1997) 結晶学会誌, 39, 37-44. [3] 奥部真樹、佐々木聡 (2014) 結晶学会誌, 56, 158-165. [4] 大隅一政 (1985) 結晶学会誌 27, 73-80. [5] Yamane et al. (2022) AO-SRI 2022 in Sendai. [6] 原田ら (2024) PF-symposium. [7] Yamane et al. (2024) CGCT-9 2024 in Jeju [8] Okamoto et al. (2021) JMPS, 116, 251-262.