一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R3:高圧科学・地球深部

2024年9月12日(木) 10:00 〜 12:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:境 毅(愛媛大学)、新名 良介(明治大学)、石井 貴之(岡山大学)、川添 貴章(広島大学)

11:00 〜 11:15

[R3-05] 電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いたウォズリアイトのFe3+/ΣFe比の温度依存性の解明

「発表賞エントリー」

*山口 和貴1、川添 貴章1、井上 徹1、富岡 尚敬2 (1. 広島大学、2. JAMSTEC高知コア研)

キーワード:ウォズリアイト、3価の鉄イオン、酸素フィガシティー、電子エネルギー損失分光

地球のマントル遷移層上部の約60%はカンラン石の高圧相であるウォズリアイトで構成されている。マントル遷移層には海洋プレートの沈み込みにより水や3価の鉄イオンが供給されている。3価の鉄イオンは、ウォズリアイトの弾性的性質(Buchen et al. 2017)と含水化メカニズム(Kawazoe et al. 2016)に影響することが分かっている。また、酸素分圧がウォズリアイトのソリダス温度(山口 2023 修士論文)と粒成長速度(Nishihara et al. 2006)に影響することも明らかになっている。マントル遷移層の平均温度は約1600℃(Katsura, 2022)とされているが、マントル遷移層の温度は沈み込むスラブとホットプルームにおいて大きく異なり、その差はマントル遷移層下部で約1100℃である(Maruyama et al., 2001; Maruyama et al., 2007; Kubo et al., 2009)。このため、3価の鉄イオンがウォズリアイトの物性に及ぼす影響を制約するためには、ウォズリアイトのFe3+/ΣFe比の温度依存性の解明が必要不可欠である。そこで本研究では、川井型マルチアンビル装置と電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いてウォズリアイトのFe3+/ΣFe比の温度依存性を明らかにするための高温高圧実験と回収試料の分析を行った。出発物質にはサンカルロス産カンラン石の粉末を用いた。出発物質は酸素分圧バッファーとともにAuカプセルに封入した。高温高圧実験は、広島大学設置の川井型マルチアンビル装置MAPLE600を用いて行った。実験は13.7~14.6 GPa、1300~1600℃の温度圧力条件で行った。これらの温度圧力条件を1分から30分保持し急冷した。酸素分圧はRe-ReO2バッファーとMo-MoO2バッファーを用いて制御した。回収試料は、鏡面研磨後、反射顕微鏡および電子プローブマイクロアナライザーを用いて観察し、元素組成を分析した。回収試料の相同定には、微小領域X線回折法、顕微ラマン分光法と電子線回折法を用いた。ウォズリアイトのFe3+/ΣFe比の測定には電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いた。Re-ReO2バッファー試料における各温度でのFe3+/ΣFe比は、1300, 1400, 1500, 1600℃においてそれぞれ0.15±0.03, 0.26±0.06, 0.29±0.04, 0.20±0.03であった。このように1300~1500℃において、ウォズリアイトのFe3+/ΣFe比は温度上昇とともに増加した。一方1600℃において、Fe3+/ΣFe比が1500℃のものよりも減少した。1500℃と1600℃では急冷メルトが存在していたため、部分熔融がFe3+/ΣFe比に影響した可能性がある。 本測定の前には、電子線による試料へのダメージの影響を評価するためにタイムランを行った。タイムランは、10秒×1回の測定を積算する方法で行った。この結果、少なくともビーム照射時間が100秒までは電子線によるダメージは受けていないことが分かった。本測定は60~90秒で行ったため、本研究で報告したFe3+/ΣFe比はビームダメージの影響を受けていないと評価できる。