一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R3:高圧科学・地球深部

2024年9月12日(木) 14:00 〜 15:15 ES025 (東山キャンパス)

座長:境 毅(愛媛大学)、新名 良介(明治大学)、石井 貴之(岡山大学)、川添 貴章(広島大学)

15:00 〜 15:15

[R3-13] FeS IVとVの相境界について

*浦川 啓1 (1. 岡山大学)

キーワード:硫化鉄、二次相転移、熱膨張率、高圧、X線回折

FeSは惑星や小惑星,衛星のコアの構成成分のひとつであると考えられている。そのため,高温高圧下の相平衡や物性については様々な研究がなされてきた。FeSの多形の多くはNiAs型構造に関連した超格子構造を持っている。数GPaまでの圧力ではFeSは高スピン状態をとる。室温ではFeS I(toroilite)が安定で,温度上昇に伴いFeS IV(hexagonal相)からFeS V(単純NiAs型相)へと相転移する。これらは二次相転移で,FeS IとIVは反強磁性でFeS Vは常磁性である。Kusaba et al. (1998)とUrakawa et al. (2004)は高温高圧X線回折実験を行い,FeS IVの超格子反射の存否からFeS IVとVの境界が約20GPaまでほぼ直線的に変化することを報告した。この相境界を1気圧まで外挿すると約450 Kとなる。一方,磁化率測定(Horwood et al., 1976)による反強磁性から常磁性への変化は約590 K(Néel温度)で起こり140度の違いがある。本研究では放射光X線を用いたその場観察に基づき高スピンのFeS IVとVの相境界を再検討した。
 KEKのPF-AR NE5CにおいてMAX80を用いてエネルギー分散法でX線回折測定を行った。出発試料には合成したトロイライト粉末を用いた。温度はW25%Re―W3%Re熱電対で測温し,圧力はNaClの状態方程式から求めた。荷重一定で1100 Kまで昇温したのち降温過程でFeSの粉末X線回折プロファイルを得た。データ解析にはPDIndexerを用いた。
 300 K から1000 Kまでの温度範囲で25度毎にデータ収集してFeSの格子定数の温度変化を調べた。温度の減少に伴い圧力は約3 GPaから2 GPaまで下がった。等温体積弾性率を用いて各温度の体積を2.5 GPaの値に補正した。補正した体積は概ね温度に線形に変化するが2.5 GPa・625 K 付近で折れ曲がっており,2次相転移で期待される熱膨張率の不連続を示している。1気圧でも中性子回折実験から熱膨張率の不連続変化がNéel温度で起こることが報告されている(Tenailleau et al.,2005)。熱膨張率の比較から1気圧と2.5 GPaの2次相転移は同じものであると考えられる。これらを総合すると,高スピンのFeS Vの安定領域は,FeS IVの超格子反射から決められた境界より高温側にシフトする。

参考文献 Kusaba et al., J. Phys. Chem. Solids, 59, 945 (1998). Urakawa et al., Phys. Earth Planet. Inter., 143-144, 469 (2004). Horwood et al., J. Solid State Chem., 17, 35 (1976). Tenailleau et al., Mineral. Mag., 69, 205 (2005).