一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

ポスター

R3:高圧科学・地球深部

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R3-P-01] 沈み込み帯の高温高圧下におけるアルカンの化学反応に対する無機鉱物の影響

*篠崎 彩子1、滝本 樹奈1、永井 隆哉1、三村 耕一2 (1. 北海道大学・院理、2. 名古屋大学・環境)

キーワード:炭化水素、カンラン石、ガスクロマトグラフ質量分析計、ラマン分光分析、沈み込み帯

地球表層から地球深部へと物質が供給される唯一の領域である沈み込み帯は、全地球規模での炭素循環を理解する上で特に重要である。海洋底堆積物に含まれる有機物は、炭酸塩鉱物と並ぶ重要な炭素のリザーバーと考えられているが、沈み込み帯の高温高圧条件における有機物の挙動には未解明の点が多い。本研究では、堆積物有機物の重要な構成要素であり、沈み込み帯での存在が指摘されている飽和炭化水素(アルカン)を対象に、深さ25 km程度に相当する温度圧力条件での高温高圧実験を行い、特にアルカンの化学反応に対する共存鉱物の影響に着目して、無機鉱物、有機物双方を対象とした化学分析を行った。高温高圧実験には外熱式ピストンシリンダーを用いた。0.5 GPa、300-400℃で6-192時間の間で反応時間を変えて実験を行った。出発物質は直鎖アルカンのn-ペンタコサン(C25H52, 以下n-C25)と無機鉱物(石英, アルミナ, San Carlos産カンラン石)を重量比1:4の割合で混合して用いた。金カプセルに封入した試料を高温高圧下で反応させた後、常温常圧へと回収した。ジクロロメタン溶媒中でカプセルを開封して溶媒に可溶な成分を抽出したのち、メンブレンフィルターを用いて不溶性物質と分離した。可溶性物質はガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)、無機鉱物を含む不溶性物質はラマン分光分析、粉末X線回折(XRD)測定により評価した。石英もしくはアルミナと共存する条件では360℃で48時間以上の反応でn-C25より低分子量の直鎖アルカンとより高分子量のアルカン(直鎖および分岐)が観察された。低分子直鎖アルカンの生成はn-C25のC-C結合が切断される熱クラッキング反応を示している。高分子アルカンは、熱クラッキング反応で生成したアルケンとn-C25との間の重合反応により生成したと考えられる。石英との共存条件と、アルミナとの共存条件下とで、n-C25の減少率に有意な差異が見られなかったことから、熱クラッキング反応に対するこれらの鉱物の影響は限定的だと考えられる。石英もしくはアルミナが共存する場合、400℃で48時間以上の条件では、低分子直鎖アルカンが検出された一方で高分子アルカンは検出されなかった。同時に不溶性物質のラマンスペクトルからは新たにD-band, G-bandが観察されたことから、高分子アルカンから脱水素反応を伴う重合反応が起きてglassy carbonが生成したと考えられる。カンラン石と共存する条件では、320℃で48時間反応した条件で低分子アルカンと高分子アルカンがともに検出されなかった一方で、顕著なn-C25の減少とglassy carbonの生成が観察された。カンラン石が共存する場合には上記の熱クラッキングが進行するより低い温度条件でn-C25の脱水素反応が進行することを示している。反応後の不溶性物質のXRDやラマン分析からはカンラン石以外の鉱物は観察されなかったことからカンラン石の触媒的な作用によって脱水素反応が促進された可能性がある。沈み込み帯において、SiO2やAl2O3に富む堆積物起源のスラブではC-C結合の熱クラッキングが進行し、低分子の炭化水素が生成しやすいが、マントルウェッジのようなカンラン石に富む環境では、脱水素反応が進行しやすいと考えられる。