一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R4:地球表層・環境・生命

2024年9月13日(金) 10:15 〜 12:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:佐久間 博(物質・材料研究機構)、甕 聡子(山形大学)、川野 潤(北海道大学)

10:15 〜 10:35

[R4-01] 球状コンクリーションの理解と応用-自然に学ぶ恒久的シーリング新素材の開発-

「招待講演」

*吉田 英一1 (1. 名古屋大学)

キーワード:球状コンクリーション、炭酸カルシウム、恒久的シーリング剤

地球表層での続成(岩石化)作用や化石化作用は、物質循環に伴う元素の移動・固定によるものである。このような物質循環プロセスは、自然界ではおおよそ緩慢である。一方、人間活動に伴う資源の消費やコンクリート生成に伴う材料・物質の循環は非常に速く、その速度的ギャップがCO2による温暖化や放射性廃棄物の蓄積などといった、これまでに直面してこなかった地球規模での現象を顕在化させている。その課題に対処するための方法として進められているのが、CO2地下貯留(CCS: Carbon Dioxide Capture and Storage)や放射性廃棄物の地下処分(隔離)といった地下環境の活用である。
 地下環境を利用する最大の理由は、少なくとも103年以上もの時間スケールでのCO2の貯留や廃棄物の隔離が求められることにある。そのためには、物質循環の激しい地表に保管(管理)するのではなく、石油や鉱物鉱床が長期に渡って保持されてきた地下環境に委ねる方が技術的かつ倫理的にも現実的であるという考えに基づいている(OECD/NEA, 2021)。しかしながら、CO2や放射性廃棄物を地下に埋設・隔離するためには、ボーリング孔や搬入立坑、トンネルが必須であり、漏洩・汚染拡大させないためにもこれらの「穴」を恒久的にシーリングすることが不可欠となる。一方で、このような恒久的シーリング技術(材料)を現状我々は有していない。現在、工学的に用いられるセメントを基本とするグラウチング素材においても、注入後のカルシウムイオンの溶出等に伴い数百年以上は持たないと考えられている。この課題を解決するには、シーリング剤として長期に渡って地下環境においても安定に存在し続ける素材(鉱物)を用いるしかない。この背景のもと、着目したのがコンクリーションである。
 コンクリーションには、主にCa, Si, Feをセメントの主成分とするものがある。とくにCaCO3を主成分とするコンクリーションは、保存良好な化石を内包するなど最もよく知られた鉱物素材であり、メートルサイズでも数年程度で形成されることが明らかとなった(Yoshida et al., 2015, 2018, 2020)。その形成・成長は、海底堆積物中の生物遺骸から拡散・放出される有機酸起源の炭酸と海水中のカルシウムイオンとの過飽和・沈殿反応に伴う、カルサイトの急速沈殿・空隙シーリングによる。その結果、数百万年以上もの長期に渡って生物殻がコンクリーション中に保存され、風化・変質することなく産出する。
 この特性を応用し、民間化学工業会社と人工的コンクリーション化剤‘コンクリーションシード(略称コンシード:特許第6889508号;7164119号;7215762号)’を開発し、このコンシードによるシーリング実証試験を、日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センター(北海道幌延町)の地下350 mで行った。その結果、トンネル掘削に伴う岩盤の破壊領域(掘削損傷領域:EDZ)の透水係数が、半年で2〜3オーダー以上低下し、周辺母岩とほぼ同レベルの透水性に改善された。さらに、本試験中にM5.4の直下型地震が発生し、透水性が一旦上昇したにも関わらず、数ヶ月後には元の低透水性にリカバリーした(Yoshida et al.,2024)。このようなシーリング効果は、地層処分だけでなく、岩盤中の割れ目帯や断層破砕帯などの大規模水みちの止水対策や,既存トンネルの修復に用いられるグラウト技術の代替策として、さらにはCCSや石油廃孔の恒久的シーリングを担保するものである。
 CaCO3(カルサイト)は、自然界に豊富に存在し、生成が速くかつ鉱物的にも安定である。生物化石を含むコンクリーションの存在は、そのことを明確に語っている。このような自然現象を理解し、応用へと展開させるには、地球化学的アプローチが重要かつ不可欠あるとともに、地質学・鉱物学・古生物学・地球物理学並びに関連する工学分野との協働が、直面している長期化する環境問題の解決に向けてさらに重要かつ効果的だと考える。
 文献Yoshida et al. (2015) Scientific Reports; Yoshida et al. (2018) Scientific Reports; Yoshida et al. (2020) Geochemical Journal.; OECD/NEA (2021) OECD publishing Paris, NEA/RWM/R1. Yoshida et al. (2024) Communications Engineering (nature) https://doi.org/10.1038/s44172-024-00216-1.