10:50 AM - 11:05 AM
[R4-03] Crystallographic preferred orientation and grain size of apatite in terrestrial mammalian bones
Keywords:Apatite, terrestrial mammal, Bone, Pregerred orientation, Grain size
陸生哺乳類動物の骨は主に水酸基を含む燐灰石Ca10(PO4)6(OH)2多結晶体からなることが知られている。現世の動物の骨組織の研究は過去に地球上に生息していた動物の生態や機能を化石から推定するさいの重要な基礎データになるだけでなく、特に陸生哺乳類の骨格の組織解析から得られた知見は医療に用いられる人工歯や人工骨の開発に役立てられている。例えば、Nakano et al. (2008)はウサギの尺骨の燐灰石が、骨の伸張方向に対してc軸が向くように定向配列していること、透過型電子顕微鏡による観察によって結晶サイズが数10nm程度であり光学顕微鏡では結晶子が観察出来ないぐらい細粒であることを報告している。本研究では、帝京科学大学アニマルサイエンス学科の濱野氏より提供されたタヌキの骨を使用し、哺乳類動物の骨の組織を詳細に記載することを目的とした。
初めに実体顕微鏡で骨の表面観察を行った上で骨の薄片を作成し偏光顕微鏡観察を行った。先行研究では、哺乳類の骨の結晶粒径は数10nm程度であり可視光の波長よりも細粒であるため、光学顕微鏡では結晶方位や組織等の観察は不可能であるとされていたが、クロスニコルで観察したところ全ての薄片で消光が認められた。例えば、足根骨の伸張方向の断面、足根骨の輪切り断面、手首の関節断面は明瞭な消光が観察できた。足根骨の伸張方向の断面の組織は外側と内側に分けられ、外側は硬く緻密な部分と生体組織が充填していたと考えられる空孔がある部分の二重構造がみられた。内側の層は外側2層にくらべて空隙が多く、繊維状組織を有していた。骨全体では三重構造になっていることがわかった。内側の層では、繊維状結晶の束を構成する結晶では消光角がある程度そろった消光がみられたが、繊維の束ごとの方向がランダムなため、全体でランダムな方向に結晶が存在しているように見えた。足根骨の輪切り断面では、中心の繊維状組織にランダムな消光が見られた。手首の関節輪切りは特に関節の先端外側で強い一方向の消光が見られ、内側ではランダムな消光が見られた。
偏光顕微鏡観察を行った上記三つの試料に関して、愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター設置のマイクロフォーカスX線回折装置による結晶方位解析を行った(瀨戸, 2012)。Mo KαX線を用いた透過法による2次元回折パターンを、ソフトウェアMAUD (Lutterotti et al., 2014)を用いて解析した。伸張方向に切った試料では外側の緻密な組織で骨の伸張方向に強いc軸の定向配列が見られた。伸張方向と垂直な断面で外側の緻密部分を測定したところ、a軸は伸張軸と直交する面内でランダムな方向を向いていた。内側の繊維状組織の部分ではc軸方向の定向配列は外側よりも弱く、明瞭に見られる部分と不明瞭な部分があった。この結果は繊維の束が束ごとに一方向にそろってはいない組織の任意断面を測定したことによると考えられる。燐灰石のc軸はa軸に比べ非圧縮率が大きいことが知られており(Matsukage et al., 2004)、力が一番強くかかる骨の伸張方向に結晶の強度が大きいc軸が向いているという結果は骨の機能から予想される骨組織と調和的である。
さらにマイクロフォーカスX線回折ピークの半値幅を用いてScherrerの式から結晶の粒径を推定した。粒径は全ての分析点において20nm以下となり、非常な細粒であるという結果になった。本来光学顕微鏡では観察が不可能なほどの細粒であることが示されたが、本研究では偏光顕微鏡による観察にて、全ての薄片で消光が観察された。可視光を用いた偏光顕微鏡で消光がみられるという事は、結晶の大きさが可視光(数100nm)よりも大きいことを示唆する。この矛盾の解釈として、10-20nm程度の細粒の結晶がみなほぼ同じ方向を向いており、揃って大きな結晶の“フリ”をしていたため消光がみられ、光学顕微鏡でも定向配列の有無が観察出来たのではないかと結論づけた。多結晶体では細粒であるほど降伏応力が高くなるというHall-Petchの関係があり、細粒である事が骨の強度に寄与していると考えられる。
引用文献
Matsukage et al. (2004) Physics and Chemistry of Minerals, 31, 580-584
Nakano et al. (2008) Journal of the Ceramic Society of Japan, 116, 2, 313-315.
Lutterotti et al. (2014) Crystallography Education, 29, 76-84.
瀨戸雄介 (2012) 高圧力の科学と技術,22,2,144-152.
初めに実体顕微鏡で骨の表面観察を行った上で骨の薄片を作成し偏光顕微鏡観察を行った。先行研究では、哺乳類の骨の結晶粒径は数10nm程度であり可視光の波長よりも細粒であるため、光学顕微鏡では結晶方位や組織等の観察は不可能であるとされていたが、クロスニコルで観察したところ全ての薄片で消光が認められた。例えば、足根骨の伸張方向の断面、足根骨の輪切り断面、手首の関節断面は明瞭な消光が観察できた。足根骨の伸張方向の断面の組織は外側と内側に分けられ、外側は硬く緻密な部分と生体組織が充填していたと考えられる空孔がある部分の二重構造がみられた。内側の層は外側2層にくらべて空隙が多く、繊維状組織を有していた。骨全体では三重構造になっていることがわかった。内側の層では、繊維状結晶の束を構成する結晶では消光角がある程度そろった消光がみられたが、繊維の束ごとの方向がランダムなため、全体でランダムな方向に結晶が存在しているように見えた。足根骨の輪切り断面では、中心の繊維状組織にランダムな消光が見られた。手首の関節輪切りは特に関節の先端外側で強い一方向の消光が見られ、内側ではランダムな消光が見られた。
偏光顕微鏡観察を行った上記三つの試料に関して、愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター設置のマイクロフォーカスX線回折装置による結晶方位解析を行った(瀨戸, 2012)。Mo KαX線を用いた透過法による2次元回折パターンを、ソフトウェアMAUD (Lutterotti et al., 2014)を用いて解析した。伸張方向に切った試料では外側の緻密な組織で骨の伸張方向に強いc軸の定向配列が見られた。伸張方向と垂直な断面で外側の緻密部分を測定したところ、a軸は伸張軸と直交する面内でランダムな方向を向いていた。内側の繊維状組織の部分ではc軸方向の定向配列は外側よりも弱く、明瞭に見られる部分と不明瞭な部分があった。この結果は繊維の束が束ごとに一方向にそろってはいない組織の任意断面を測定したことによると考えられる。燐灰石のc軸はa軸に比べ非圧縮率が大きいことが知られており(Matsukage et al., 2004)、力が一番強くかかる骨の伸張方向に結晶の強度が大きいc軸が向いているという結果は骨の機能から予想される骨組織と調和的である。
さらにマイクロフォーカスX線回折ピークの半値幅を用いてScherrerの式から結晶の粒径を推定した。粒径は全ての分析点において20nm以下となり、非常な細粒であるという結果になった。本来光学顕微鏡では観察が不可能なほどの細粒であることが示されたが、本研究では偏光顕微鏡による観察にて、全ての薄片で消光が観察された。可視光を用いた偏光顕微鏡で消光がみられるという事は、結晶の大きさが可視光(数100nm)よりも大きいことを示唆する。この矛盾の解釈として、10-20nm程度の細粒の結晶がみなほぼ同じ方向を向いており、揃って大きな結晶の“フリ”をしていたため消光がみられ、光学顕微鏡でも定向配列の有無が観察出来たのではないかと結論づけた。多結晶体では細粒であるほど降伏応力が高くなるというHall-Petchの関係があり、細粒である事が骨の強度に寄与していると考えられる。
引用文献
Matsukage et al. (2004) Physics and Chemistry of Minerals, 31, 580-584
Nakano et al. (2008) Journal of the Ceramic Society of Japan, 116, 2, 313-315.
Lutterotti et al. (2014) Crystallography Education, 29, 76-84.
瀨戸雄介 (2012) 高圧力の科学と技術,22,2,144-152.