一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R4:地球表層・環境・生命

2024年9月13日(金) 10:15 〜 12:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:佐久間 博(物質・材料研究機構)、甕 聡子(山形大学)、川野 潤(北海道大学)

11:05 〜 11:20

[R4-04] 生物起源あられ石におけるNaの微視的分布

*奥村 大河1、鈴木 道生2、Perez-Huerta Alberto3、Samajpati Eshita3、小暮 敏博1 (1. 東大・院理、2. 東大・院農、3. Univ. Alabama Geol. Sci.)

キーワード:あられ石、ナトリウム、バイオミネラリゼーション、STEM-EDS、3次元アトムプローブ

多くの生物起源あられ石には、結晶内に様々な微量元素が含まれる。その中でもNaは最も主要な元素であり、生物の生息環境に応じて含有量が変化する。しかし、あられ石中でのNaの存在状態は完全には明らかになっていない。我々は本学会の一昨年の年会において、生物起源あられ石およびin vitroで合成したNa含有あられ石について、その結晶構造について報告した。生物起源あられ石では、陸生 < 淡水生 < 汽水生 < 海水生の貝殻の順で軸率(a/bc/b)が大きく、軸率の増大はNaの含有量と相関していた。合成あられ石においても同様な傾向が見られたため、異方的な格子定数変化はNaがCaを置換することが原因であると考えられた。一方、Pokroy et al. (2007) では加熱処理によってこうした異方性が緩和することが報告されている。そこで本研究では、生物起源あられ石に加熱処理を施し、格子定数やNaの微視的分布の変化を調べることにより、結晶中に含まれるNaの存在状態の解明を目指した。
 試料は海水生貝類のアワビ(Haliotis discus)とアコヤガイ(Pinctada fucata)の真珠層を用いた。これらの貝殻粉末を250°Cで加熱し、加熱前後で粉末X線回折により格子定数を測定した。加熱前の軸長は非生物起源あられ石に比べてa軸とc軸は長く、b軸はやや短かったが、加熱後は非生物起源あられ石とほぼ同じ値に変化した。走査電子顕微鏡を用いてエネルギー分散型X線分光(EDS)分析を行うと、加熱前後でNa含有量に大きな変化は見られなかった。次に、イオンミリング法によってアワビ真珠層断面の薄膜試料を作製し、走査透過電子顕微鏡を用いたEDS分析により加熱前後のNaの微視的分布を調べた。その結果、加熱前はNaが結晶内に均一に分布していたのに対し、加熱後は結晶内に存在するNaの量は減少し、結晶端面に濃集していた。さらに詳細なNaの分布を調べるため、加熱前後のアワビ真珠層から集束イオンビーム試料加工装置により半径50 nm程度の針状試料を作製し、3次元アトムプローブを用いて分析した。加熱前は結晶全体にNa+が検出されたが、ややNa+濃度が高い部分がCOH+の分布と一致していたため、一部のNaは有機物に結合して存在することが示唆された。一方、加熱後には結晶内にはNa+がほとんど存在せず、結晶界面に存在する有機膜の周辺に濃集していた。Na+の分布はNa2CO3+ではなくNa2O+の分布と相関が見られたため、Naは有機物と結合した可能性が考えられる。以上の結果から、生物起源あられ石に含まれるNaにはCaを置換するものと有機物に結合するものが存在するが、加熱によってNaが散逸して結晶格子から抜けることで軸長の異方性が緩和されたと考えられる。今後は合成したNa含有あられ石でも同様な実験を行い、Naの存在状態をより詳細に調べる予定である。