一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R4:地球表層・環境・生命

2024年9月13日(金) 10:15 〜 12:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:佐久間 博(物質・材料研究機構)、甕 聡子(山形大学)、川野 潤(北海道大学)

11:20 〜 11:40

[R4-05] バイオミネラリゼーションにおける鉱物生成を司る有機基質

「招待講演」

*鈴木 道生1 (1. 東大・院農)

キーワード:バイオミネラリゼーション、有機基質、炭酸カルシウム、アコヤガイ

貝類の貝殻は炭酸カルシウムを主成分とする代表的なバイオミネラルの一つである。日本では真珠養殖に利用されるアコヤガイの貝殻は、宝石の真珠と同じ構造を有する扁平状の炭酸カルシウムを含む内側の真珠層、柱状の炭酸カルシウムから成る外側の稜柱層、二枚貝を繋ぐ蝶番部に存在する炭酸カルシウムナノファイバーを含む靭帯と複数の複雑な微細構造により構成されている。これらの微細構造の形成において、炭酸カルシウムのサイズ、形態、多形、方位、結晶欠陥などの特徴が全く異なっており、アコヤガイは有機基質や微量元素、イオン濃度などを生体内外で調整することで緻密に作り分けることが可能である。
 これまで発表者の研究において、特に貝殻内に存在する有機基質に着目して研究を進めており、有機基質の構造と機能がどのように貝殻微細構造を形成に寄与するのか明らかにすることを目的に研究を進めてきた。真珠層には炭酸カルシウムの脱灰と共に溶出する可溶性成分に含まれる炭酸脱水酵素であるnacrein、不溶性成分から変性剤で溶出され有機基質の枠組みを形成するPif、有機基質の架橋を行うtyrosinase、変性剤でも可溶化しない不溶性成分として有機基質の骨格を構成するキチン、MSI60、NU-5などが同定されてきた。この中でPif関連タンパク質は貝殻の基質タンパク質として、有機物間相互作用と炭酸カルシウムとの相互作用の両方の機能を持ち真珠層以外の多くの貝殻微細構造に含まれることが分かってきた。核磁気共鳴を用いた解析により、固体表面でPifの繰り返し配列が伸長し結合することが判明した。また、有機基質の骨格を形成するキチンはキチン分解酵素による作用でナノファイバー化することで欠陥の誘導や有機膜の薄膜化を実現していることが示された。以上のように、貝殻内には多くのタンパク質が存在し、様々な役割分担をして貝殻微細構造を形成していると言える。このような有機基質のバイオミネラル内での機能や役割について最新の研究成果を紹介する。