一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R4:地球表層・環境・生命

2024年9月13日(金) 10:15 〜 12:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:佐久間 博(物質・材料研究機構)、甕 聡子(山形大学)、川野 潤(北海道大学)

11:40 〜 11:55

[R4-06] n-ブチルアミンの添加による非晶質炭酸カルシウム(ACC)からのアラゴナイト生成

*鍵 裕之1、村岡 賢佑1 (1. 東京大学)

キーワード:非晶質炭酸カルシウム、アラゴナイト、多形制御

炭酸カルシウムは普遍的な鉱物で、3つの結晶多形、すなわちカルサイト、アラゴナイト、ファーテライトが存在する。準安定な非晶質炭酸カルシウム(ACC)は化学式CaCO3nH2O(n<1.5)で表され、バイオミネラリゼーションにおいて上記の結晶多形の前駆体として働くことが知られている。ACCは高温、高圧、湿潤環境といった条件でのin vivo実験で、カルサイトとファーテライトに結晶化することが多く報告されている[e.g., 1-3]。一方、ACCからアラゴナイトへの結晶化は報告例がきわめて少なく、アラゴナイト生成を誘導することが古くから知られているマグネシウムイオン(塩化マグネシウム水溶液)を添加したエタノールからの析出といったものに限られている[4]。一方、過飽和水溶液からの炭酸カルシウムの生成で、アミン類がアラゴナイトの生成を誘導することが報告されている[5]。本研究では、ACCから炭酸カルシウムへの結晶化における多形制御、特にアラゴナイトへの選択的結晶化の条件を調べることとした。

ACCは先行研究に従って合成した[1, 2]。 ACCとn-ブチルアミンを様々な割合で混合し、温度30℃、相対湿度90%RH、80%RHの条件でそれぞれ2時間放置した。ACCとn-ブチルアミンのみを混合するだけでは炭酸カルシウムへの結晶化は起こらず、湿潤条件によるACCへの水の添加が結晶化に効いていることがわかった。

実験の結果、n-ブチルアミンとACCの量比と得られた多形の割合は添付の図のようになった。注目すべきは、アラゴナイト生成をもたらすことで知られるMg2+イオンを添加することなく、きわめて高純度なアラゴナイトが得られたことである。アラゴナイトの生成に、n-ブチルアミンの疎水性あるいは塩基性のどちらが効いているのかを理解するために、疎水性のヘキサン、塩基性のアンモニア水、そしてヘキサンとアンモニア水の混合物それぞれをACCと混合し、室温条件で2週間放置した。これら3種類の試料の中で、ヘキサンとアンモニア水との混合物のみがACCからアラゴナイトを生成した。この結果は、ACCからアラゴナイトへの結晶化には疎水性と塩基性の両方が必要であることを示唆している。本研究は、ACCからの結晶多形制御への新たな可能性を拓くと期待される。

[1] Koga et al (1998) Thermochimica Acta, 318, 239-244. [2] Yoshino et al. (2012) Crystal Growth and Design, 343, 62-67. [3] Xu et al. (2006) Journal of Physical Chemistry B, 110, 2764-2770. [4] Zhang et al. (2012) Journal of Crystal Growth, 343, 62-67. [4] Chuajiw et al. (2013) Journal of Crystal Growth, 386, 119-127.
R4-06