一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

ポスター

R4:地球表層・環境・生命

2024年9月13日(金) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R4-P-07] 高分解能走査透過電子顕微鏡法によるアモサイト石綿断面微細組織観察

*三浦 颯人1、大西 市朗1 (1. 日本電子(株))

キーワード:石綿、透過電子顕微鏡、走査透過電子顕微鏡

はじめに: 角閃石系石綿の中でもクロシドライト石綿は微細化しやすく,吸引性が高いことから,人体への毒性が高いと考えられている.その微細化に関しては,これまで多くの研究がなされており(例えば[1]),クロシドライト石綿が多結晶の微繊維の集まりであり,微繊維内外に存在する多くの積層不整や層状ケイ酸塩が起因となって微細化する可能性が示唆されている[1].筆者らは,走査透過電子顕微鏡法(STEM)の一つである最適明視野STEM(OBF-STEM)[2]を用いたクロシドライト石綿断面の微細組織観察を行い,低電子線照射条件においても高いコントラストにて原子分解能観察が可能なOBF-STEMを用いることで,クロシドライト石綿微繊維の隙間に存在する層状ケイ酸塩鉱物がタルク様ケイ酸塩であることを明らかにし,昨年の本会にてその詳細結果を報告した[3].一方,同じ角閃石系石綿の一つであるアモサイト石綿は,その縦横比が大きいことから,クロシドライト石綿と並び人体への影響力が大きい可能性が示唆されている[4]. しかしながら, これまで詳細な断面観察を行った研究は少なく,その微細化メカニズムはよく分かっていない.微細化メカニズムの解明のためには,他の石綿との鉱物学的類似性や相違点を明らかにすることは重要である.本研究では,クロシドライト石綿との比較を行うことを目的として高分解能STEMによるアモサイト石綿の微細組織観察を行った.

実験方法: 試料は南アフリカ産アモサイト石綿を用いた.石綿繊維をエポキシ樹脂に包埋後,日本電子製イオンミリング装置・イオンスライサTMを用いて断面薄膜試料を作成した.STEM観察には,JEOL製200kV収差補正S/TEM・JEM-ARM200Fを用いた.STEM観察時の加速電圧は200kV,プローブ電流は10 pAである.

結果&考察:クロシドライト石綿と同様,アモサイト石綿も多結晶微繊維の集まりであるが,アモサイト石綿の微繊維の大きさ(長径0.1~1.0 um)はクロシドライト石綿の微繊維(長径10~200 nm)よりも大きく,微繊維間の隙間(粒界)も小さい傾向が見られた.また,微繊維の粒界三重点などの隙間を埋めるように層状ケイ酸塩がしばしば存在する(大きさ10~数百nm)ことが分かった(図1).エネルギー分散形X線分光(EDS)分析の結果,層状ケイ酸塩は,カリウム,マグネシウム, 鉄などの元素に富み,高分解能STEM観察の結果,層状ケイ酸塩の層間の底面間隔が約1nmであることが判明した(図1).これらの結果は,アモサイト石綿中に存在する層状ケイ酸塩が雲母様ケイ酸塩であることを示唆する.さらに,クロシドライト石綿においては微繊維内外の多くの領域において発見された積層不整や多重鎖ケイ酸塩は,アモサイト石綿では存在量が少なく,粒界を埋めた層状ケイ酸塩の周囲の微繊維にのみ限定的に存在することが分かった.以上のように,アモサイト石綿は,クロシドライト石綿と比べ,微繊維の大きさや粒界の状態,積層不整や多重鎖ケイ酸塩の存在比や密度,層状ケイ酸塩の種類などが異なることが分かった.今後OBF-STEMなどを用いてさらに詳細な微細組織観察を行い,他の石綿との比較から,石綿繊維の微細化メカニズム解明の手掛かりを得ていきたいと考えている.

引用文献:[1] J.H. Ahn & P.R. Buseck (1991) Am. Min., 76, 1467-1478, [2] Ooe et al. (2021) Ultramicroscopy 220, 113133, [3] 大西 & 三浦 (2023) 日本鉱物科学会2023年年会講演要旨集 279-280, [4] 村井 (2006) 岩石鉱物科学35, 34-39.
R4-P-07