9:00 AM - 9:15 AM
[R5-01] Revealing Chemical Compositional Variety of Amorphous Silicate Dust around AGB Stars by Condensation Experiment and Spectroscopic Analysis
「発表賞エントリー」
Keywords:circumstellar dust, amorphous silicate, presolar grain, experiment, spectroscopy
進化末期の中小質量星である漸近巨星分枝 (AGB) 星は,先太陽系から生き残ったプレソーラー粒子の主な起源である.AGB星起源のプレソーラーケイ酸塩は,(Mg+Fe)/Siの値に幅があることや(Floss & Haenecour, 2016),Alに富む非晶質ケイ酸塩の存在が明らかになっている(Nguyen et al., 2016).一方,酸素に富むAGB星の観測スペクトルは10,18 µmに非晶質ケイ酸塩ダストに由来するピークを示す.ピークの位置や幅が星ごとに異なることから,星周ダストの化学組成も多様であることが示唆される.しかし,非晶質ケイ酸塩の具体的な化学組成の制約は困難で,星周ダストとプレソーラー粒子の性質がどのように対応するのかは,十分に議論されていない.従来,AGB星周ダストは,複数の観測データと鉱物の実験室データから合成された光学定数が与えられた「アストロノミカルシリケイト」で広く解釈されてきた (Draine&Lee, 1984; Ossenkopf et al., 1992).しかし,アストロノミカルシリケイトは,化学組成や構造が想定されていない架空の物質であり,ダストの形成条件や過程を議論できない.また,実験によって様々なダスト模擬物質が合成されてきたが (Dorschner, et al., 1995, Jäger et al., 2003, Mutschke et al., 1998),アストロノミカルシリケイトに代わり観測を解釈できる物質は提示されていない.これはダストの模擬物質として使われる非晶質ケイ酸塩の多くがMg-Si-Fe系の化学量論的組成で合成され,ダストの化学組成制約に利用できる光学定数が限られているためである.そこで,本研究は,Mg-Al-Si,Mg-Ca-Al-Si系で系統的な凝縮実験を行い,ダスト模擬物質の光学定数を決定した.誘導熱プラズマ装置(JEOL TP-40020NPS; Kim et al., 2021)を用い,出発物質の組成を系統的に変化させたダスト凝縮実験を行った.生成物の結晶相をXRD (Rigaku RINT-2100),バルク組成をEPMA (JEOL JXA-8530F),粒子ごとの組成と構造をSTEM (JEOL JEM-2800)で分析し,KBr媒質に分散させた生成物の吸光度を測定した (JASCO FT/IR-4200).一部の生成物について,生成物を圧密したペレットで反射率を測定した(Thermo Nicolet 6700).生成物の光学定数は,反射率から決定した高波数での誘電率を用いて,吸収スペクトルをローレンツ振動子モデルでフィッティングすることによって求めた.また,決定した光学定数を用い,KBr媒質の影響のない,すなわち真空中での生成物の吸収スペクトルを,球状粒子を仮定し直径0.1-10 µmのサイズ範囲で算出した.生成物は主に球状の非晶質ナノ粒子(10-150 nm)であり,バルク化学組成は出発物質からわずかに変化していたが,出発物質が完全に蒸発しなかったためである.Mg-Al-Si系では,Al/Siが0.07から0.53までの非晶質ケイ酸塩が生成した.Mg-Ca-Al-Si系では,(Mg+Ca)/Si~1のもとで0から1のCa/Mg比を持つ生成物,(Mg+Ca)/Si~2のもとでCa/Mg~0.2, 0.5の生成物が得られた.ケイ酸塩の吸収ピークには,次のような組成依存性が見られた.Al/Siが0.07から0.53に増加すると,10 µmピークは9.4から9.6µmに移動した.Ca/Mgが0から1に増加すると,10 µmピークは9.4から9.7 µmへ,18 µmピークは17.7から19.1 µmへ移動した.(Mg+Ca)/Si~1から2へ変化すると,10 µmピークは長波長へ,18 µmピークは短波長へ系統的に変化した.最もケイ酸塩に富むグループのAGB星であるTY DraとIK Tau のダストスペクトルと,実験生成物の吸収スペクトルの計算結果を比較した.TY Draは1.5 µmサイズのCIコンドライト的組成(Mg0.89Al0.07Si)の非晶質ケイ酸塩で,IK Tauは< 1 µmサイズのAlに富む非晶質ケイ酸塩(Mg0.93Al0.53Si)で最もよく再現された.本研究により,アストロノミカルシリケイトで解釈できなかった,星ごとに異なるダストの化学組成が制約された.しかし,最もケイ酸塩に富むと分類されるAGB星にもAlに富むダストが存在することは,プレソーラーケイ酸塩の多くがAlに乏しいことと矛盾する.これは,従来知られていない,星周低温領域でのSiに富むダスト形成過程がある可能性を示す.