2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

R5: Extraterrestrial materials

Sat. Sep 14, 2024 9:00 AM - 12:00 PM ES025 (Higashiyama Campus)

Chairperson:Megumi Matsumoto, Daiki Yamamoto, Yusuke Seto, Toru Matsumoto(Kyoto University)

9:30 AM - 9:45 AM

[R5-03] Progress of irreversible chemical reactions on dust moving in a protoplanetary disk

*Lily Ishizaki1, Shogo Tachibana1 (1. UT EPS)

Keywords:protoplanetary disk, protosolar disk, dust, Monte Carlo simulation

背景
原始太陽系円盤でダストが経験した化学反応は、現在の太陽系天体の化学的性質の決定に重要な役割を果たしたと考えられる。原始太陽系円盤で進行したと考えられる化学反応の実験的研究は多数なされてきた。例えばYamamoto et al. (2018)では非晶質フォルステライト(Mg2SiO4)と円盤環境を模擬した低圧H2Oガス間の酸素同位体交換速度を決定し、典型的な円盤寿命と比較することで、現在の太陽系天体の酸素同位体組成を達成するには、材料となった非晶質ケイ酸塩ダストが~500 K以上の高温環境で円盤H2Oガスと酸素同位体交換をおこなう必要があると示した。しかし、実際の円盤ではダストの運動によって温度や圧力などが刻々と変化するため、原始太陽系円盤でのダストの化学反応進行を理解するにはダストのダイナミクスを考慮する必要がある。本研究では、原始惑星系円盤内を運動するダストが経験する仮想的な不可逆化学反応の進行を調べた。

手法
原始惑星系円盤内をガスとよく馴染んで運動するダスト粒子を追跡する3Dモンテカルロシミュレーションをおこなった(Ciesla 2010; 2011; Okamoto & Ida 2022)。円盤モデルとして、ガス密度に比例する粘性加熱(α粘性モデル; Shakura & Sunyaev 1973)を熱源とする鉛直・動径温度構造を持つ定常降着円盤を採用した。ダストの吸光度は2.5 cm2/g、主星質量は太陽質量Mで一定とした。乱流粘性係数αは10-2、10-3、質量降着率Mgは10-6、10-7、10-8 M/yrとし、計6通りの円盤で計算をおこなった。各パラメータセットに対してダスト粒子1万個をスノーライン中心面で放出し、ダストの温度履歴に基づいてJMA式(Johnson & Mehl 1973; Avrami 1973)で表される仮想不可逆反応の進行を調べた。スノーラインにおいて反応進行度X=0でシミュレーションを開始し、JMA式を微分して得られた微小反応進行度δXを積算することで反応進行を計算した。広範な化学反応を調べるため、活性化エネルギーEaは20-1000 kJ/mol、前指数因子ν(/s)の自然対数は10-60、アブラミ指数nは0.5-4の範囲とし、~200–1500 Kの温度範囲で進行する反応を計算した。全反応が完了した(Xが0.99を超えた)時点で計算を打ち切り、最大106年間計算した。

結果・議論
全ての円盤パラメータに対し、全ての反応がそれぞれ固有の狭い温度帯で進行・完了することがわかった。反応進行度Xが特定の値(0.8、0.9、0.99)を超える以前に経験した最高経験温度のヒストグラムは対数正規分布によってよくフィッティングされ、この最大値および分散を「反応ライン温度(Treac)」およびその「幅」と定義した。反応タイムスケールと拡散移動タイムスケールを比較することで、これら2つの「反応ライン」パラメータを半解析的に予測できる式の開発に成功した(Ishizaki et al. 2023)。不可逆反応が実際に円盤で完了する際の反応タイムスケールteffも「反応ライン」予測式から得られる。teffは中心星からのある距離におけるダストの降着タイムスケールとほぼ等しくなる反応タイムスケールに相当する。teffは円盤・反応パラメータの双方に依存し、本研究で扱ったパラメータ範囲では~0.005-266年となる。円盤パラメータを固定した場合、teffは反応パラメータに依って最大4桁程度の範囲に収まる(例:α=10-3、Mg=10-7 M/yrで~0.1-160年)。
teffは前指数因子に負、アブラミ指数に正の相関をもち、活性化エネルギーに対しては負の相関(例:α=10-3、Mg=10-7M/yr、ln(ν[/s])=30、n=1のときEa=500 kJ/molで~2.6年、Ea=100 kJ/molで~32年)をもつ。850 kJ/mol程度の大きな活性化エネルギーをもつ非晶質エンスタタイト(MgSiO3)の結晶化(Kobayashi et al. in prep; ln(ν[/s])=81.0、n=1.5)では、teffは円盤パラメータに依って22日から2年となる。一方、活性化エネルギーが414 kJ/mol程度の非晶質フォルステライトの結晶化(Yamamoto & Tachibana 2018; ln(ν[/s])=40.2、n=1.5)では、teffは73日から8年となる。このteffの違いは、活性化エネルギーが大きな反応では低温での反応進行がほぼなく、十分高温領域に到達してから効果的に反応進行することで説明できる。これら非晶質ケイ酸塩の結晶化の例では、teffは実験室で実現可能な反応時間も含み、室内実験で得た結果をそのまま円盤に応用できる円盤条件が存在しうることを示唆する。