9:45 AM - 10:00 AM
[R5-04] Experimental study of the effect of evaporation during temperature rise on type B CAI formation
「発表賞エントリー」
Keywords:CAIs, melting, evaporation, crystal growth, protosolar disk
隕石中の難揮発性包有物 (CAI) は,太陽系で形成された最古の物質であり,原始太陽系円盤の初期進化の過程が記録されている.タイプB CAIは円盤ガス中で溶融と結晶化を経験し,その際にMgとSiが蒸発したと考えられている [1-4].タイプB CAIは,その組織から,メリライト (ゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)–オケルマナイト(Ca2MgSi2O7)) のマントル構造を持つタイプB1とそれを持たないタイプB2の2つに分類される [e.g., 5].低圧の水素ガス中でのCAIメルトの蒸発–結晶化実験 [6] により,水素ガス圧が1 Pa以上の場合,水素により蒸発が促進され,メルトの表面付近がMgとSiに枯渇することで,タイプB1 CAIに類似したメリライトマントルが形成されることが示された.しかし,先行研究 [6] は,最高温度からの冷却過程の蒸発に注目しており,昇温過程で起こりうる蒸発については考慮していない.タイプB CAIの加熱メカニズムは判明しておらず,昇温と冷却のタイムスケールが同程度だった場合 [e.g., 7],昇温時の蒸発がCAIの組成や組織に影響した可能性がある.本研究では,CAIメルトの蒸発−結晶化実験を行い,昇温時の蒸発によるメリライトマントル形成への影響について議論した.
太陽系元素存在度からの平衡凝縮トレンド上のCAIχ組成 [8] のメルトの蒸発−結晶化実験を,真空炉 [4, 6] を用いて行った.ガラスとスピネルからなる出発物質を,水素ガス圧1, 10 Pa下で,1100°Cから最高温度1420°Cまで20°C hr-1で昇温し,1420°Cで1時間加熱した後,1100°Cまで20°C hr-1で冷却した.昇温時の蒸発の効果を見るため,最高温度に達した直後に急冷した試料も作成した.また,先行研究 [6] と同様に,最高温度に達してから水素ガスを導入し,1時間加熱した後,20°C hr-1で冷却した試料も作成した.実験前後に試料の重量を測定し,蒸発量を決定した.走査電子顕微鏡 (SEM) と付属のエネルギー分散型X線分光法 (EDS) 装置を用いて,試料断面の組織観察と鉱物元素分析を行った.
水素ガス圧10 Pa下では,昇温時の水素ガスの有無に関わらず,メリライトマントルが形成された.しかし,昇温時から水素を導入した試料の方がマントルの組成変化が緩やかであった (図1).また,昇温時から水素を導入した試料の方が水素にさらされる時間が長いにも関わらず,最高温度に達してから水素を導入した試料と蒸発量が同程度であった.最高温度に達した直後に急冷した試料には,樹枝状メリライトとガラスのほか,表面全体を覆ってはいないものの表面付近にÅk ~ 10 mol% のメリライト結晶も見られた.水素ガス圧1Pa下では,最高温度に達してから水素を導入した試料は,メリライトが部分的に表面を覆う一方 [6],昇温時から水素を導入した試料ではメリライトマントルが形成された.
最高温度に達した直後に急冷した試料のÅk ~ 10 mol% のメリライトは,CAIχ組成メルトからの析出が予測されない組成であり,昇温中のMgとSiの蒸発に伴うメルト組成変化が影響したと考えられる.昇温中のメルト組成変化や結晶成長は,メリライトの析出を促進し,マントルの組成ゾーニングの違いや,水素ガス圧1Pa下でのマントル形成に寄与したと予想される.また,早期のマントル形成はメルトからの蒸発を妨げたと考えられる.
今回,昇温中の蒸発がメルトの組成変化やメリライト結晶成長を引き起こし,メリライトマントル形成に影響することを明らかにした.今後は,条件を系統的に変化させた実験を行い,メリライトマントル形成に対する昇温中の蒸発の効果を理解し,加熱イベントの制約も含め,原始太陽系円盤でのCAI形成過程の解明を目指す.
[1] Grossman, L. et al. (2000) GCA 64, 2879. [2] Richter, F. M. et al. (2002) GCA 66, 521. [3] Richter, F. M. et al. (2007) GCA 71, 5544. [4] Mendybaev, R. A. et al. (2021) GCA 292, 557. [5] Wark, D. A. & Lovering, J. F. (1982) GCA 46, 2581. [6] Kamibayashi, M. et al. (2021) ApJ 923, L12. [7] McNally, C. P. et al. (2014) ApJ 791, 62. [8] Grossman, L. et al. (2002) GCA 66, 145.
太陽系元素存在度からの平衡凝縮トレンド上のCAIχ組成 [8] のメルトの蒸発−結晶化実験を,真空炉 [4, 6] を用いて行った.ガラスとスピネルからなる出発物質を,水素ガス圧1, 10 Pa下で,1100°Cから最高温度1420°Cまで20°C hr-1で昇温し,1420°Cで1時間加熱した後,1100°Cまで20°C hr-1で冷却した.昇温時の蒸発の効果を見るため,最高温度に達した直後に急冷した試料も作成した.また,先行研究 [6] と同様に,最高温度に達してから水素ガスを導入し,1時間加熱した後,20°C hr-1で冷却した試料も作成した.実験前後に試料の重量を測定し,蒸発量を決定した.走査電子顕微鏡 (SEM) と付属のエネルギー分散型X線分光法 (EDS) 装置を用いて,試料断面の組織観察と鉱物元素分析を行った.
水素ガス圧10 Pa下では,昇温時の水素ガスの有無に関わらず,メリライトマントルが形成された.しかし,昇温時から水素を導入した試料の方がマントルの組成変化が緩やかであった (図1).また,昇温時から水素を導入した試料の方が水素にさらされる時間が長いにも関わらず,最高温度に達してから水素を導入した試料と蒸発量が同程度であった.最高温度に達した直後に急冷した試料には,樹枝状メリライトとガラスのほか,表面全体を覆ってはいないものの表面付近にÅk ~ 10 mol% のメリライト結晶も見られた.水素ガス圧1Pa下では,最高温度に達してから水素を導入した試料は,メリライトが部分的に表面を覆う一方 [6],昇温時から水素を導入した試料ではメリライトマントルが形成された.
最高温度に達した直後に急冷した試料のÅk ~ 10 mol% のメリライトは,CAIχ組成メルトからの析出が予測されない組成であり,昇温中のMgとSiの蒸発に伴うメルト組成変化が影響したと考えられる.昇温中のメルト組成変化や結晶成長は,メリライトの析出を促進し,マントルの組成ゾーニングの違いや,水素ガス圧1Pa下でのマントル形成に寄与したと予想される.また,早期のマントル形成はメルトからの蒸発を妨げたと考えられる.
今回,昇温中の蒸発がメルトの組成変化やメリライト結晶成長を引き起こし,メリライトマントル形成に影響することを明らかにした.今後は,条件を系統的に変化させた実験を行い,メリライトマントル形成に対する昇温中の蒸発の効果を理解し,加熱イベントの制約も含め,原始太陽系円盤でのCAI形成過程の解明を目指す.
[1] Grossman, L. et al. (2000) GCA 64, 2879. [2] Richter, F. M. et al. (2002) GCA 66, 521. [3] Richter, F. M. et al. (2007) GCA 71, 5544. [4] Mendybaev, R. A. et al. (2021) GCA 292, 557. [5] Wark, D. A. & Lovering, J. F. (1982) GCA 46, 2581. [6] Kamibayashi, M. et al. (2021) ApJ 923, L12. [7] McNally, C. P. et al. (2014) ApJ 791, 62. [8] Grossman, L. et al. (2002) GCA 66, 145.