一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R5:地球外物質

2024年9月14日(土) 09:00 〜 12:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:松本 恵(東北大学)、山本 大貴(九州大学)、瀬戸 雄介(大阪公立大学)、松本 徹(京都大学)

10:35 〜 10:55

[R5-06] コンドルール構成鉱物の化学組成から制約する真のコンドルール形成期間

「招待講演」

*福田 航平1、木多 紀子2、木村 眞3 (1. 阪大・院理、2. ウィスコンシン大、3. 国立極地研究所)

キーワード:コンドルール、Al-Mg年代、斜長石、シリカ過剰

 26Alは半減期約70万年で26Mgに壊変する短寿命放射性核種であり、コンドルールの形成年代決定に広く用いられている [1]。斜長石はAl/Mg比が比較的高く(27Al/24Mg ~25-2,000程度)、コンドルールのAl-Mg年代測定を行う上で重要な鉱物である。しかし、斜長石の化学組成・同位体比はカンラン石や輝石に比べて母天体上での二次的な熱変成作用に敏感なため、Al-Mg年代測定結果を解釈する上で変成作用の影響評価が重要となる。本研究では、コンドルールが経験した熱変成の程度を推定することを目的とし、熱変成度の異なるCVコンドライトに含まれるコンドルール中カンラン石・輝石・斜長石の元素分析を行った。将来的に、本研究結果と高精度Al-Mg年代測定法を組み合わせることで、変成による影響を取り除いた真のコンドルール形成期間を決定することを主たる目的とする。
 8つのCVコンドライト [Allende (CV3.6), MIL 07002 (CV3.7), MIL 07671 (CV3.7), MIL 15381 (CV3.6), NWA 6991 (CV3), NWA 5028 (CV3), Leoville (CV3.1-3.4), RBT 04143 (CV3.6)]中に見つかった51個のコンドルールを分析した。元素分析にはウィスコンシン大学設置のCAMECA社製SX-Five FE EPMAを使用した。 
 カンラン石・輝石のMg# (= Mg/[Mg + Fe] molar %)の比較を行った。カンラン石は輝石に比べてFe-Mg相互拡散速度が大きいため、熱変成度の高い隕石中のコンドルールに含まれるカンラン石のMg#は、輝石に比べて低い傾向にある [2]。つまり、カンラン石と輝石のMg#を比較することで、個々のコンドルールが被った熱変成度を評価することができる。熱変成度の低いコンドライト中のコンドルールに含まれるカンラン石・輝石のMg#は互いに良い一致を示した。このことは、両鉱物が化学的に均一なメルトから晶出したことを示唆する。しかし、NWA 5028を除き、他7つのCVコンドライト中コンドルールにおけるカンラン石・輝石のMg#は一部非平衡であり、かつカンラン石のMg#は輝石に比べて系統的に低いことが確認された。熱変成度の高いコンドライト(Cv3.6-3.7)中のコンドルールは、熱変成度の比較的低いLeoville (CV3.1-3.4) に比べて高い非平衡度を示した。このことから、カンラン石・輝石のMg#の非平衡度合いは、母天体上における熱変成の影響を反映していると解釈した。
 斜長石のMgO 量、An# (= [Ca]/ [Na + K + Ca] molar %)、シリカ過剰 ([]Si4O8) の度合いを評価することで、斜長石の変成度の推定を試みた。シリカ過剰は月玄武岩の斜長石に見出されており [3]、斜長石が高温条件下(1200-1500度, 1気圧下)で結晶化することでシリカ過剰が顕著になることが実験的に示されている [4]。したがって、コンドルール中の斜長石に記録されたシリカ過剰は、コンドルール形成時の高温段階の情報を斜長石がそのまま保持している証拠となり得る [5]。NWA 5028およびRBT 04143の一部のコンドルールを除き、ほとんどのコンドルールはシリカ過剰を示さなかった。NWA 5028はサブタイプの分類がなされていないものの、当初CR2に分類された隕石であり、CVコンドライトの中でも変成度の低いサンプルである。RBT 04143は角礫岩であり、一部熱変成度の低いクラストの存在が明らかとなっている [6]。本研究の結果も、RBT 04143には熱変成を免れた始原的なコンドルールが含まれていることを示唆しており、今後これらのコンドルールに対しAl-Mg年代測定を実施することでCVコンドライトに含まれるコンドルールの形成期間を制約できると期待される。NWA 5028およびRBT 04143以外のCVコンドライト中のコンドルールはシリカ過剰を示さなかったため、コンドルール形成時に記録されたシリカ過剰は、母天体上での熱変成によって失われたと解釈できる。このことは、カンラン石・輝石間に見られたMg#非平衡度と熱変成度の関係とも整合的である。

参考文献: [1] Kita et al. (2000) GCA 64, 3913-3922. [2] Kiumura and Ikeda (1997) Antarct. Meteorites 8, 123-138. [3] Dymek et al. (1975) LPSC 6th, 49-77. [4] Longhi & Hays (1979) Am. J. Sci. 279, 876-890. [5] Tenner et al. (2019) GCA 260, 133-160. [6] Ishida et al. (2012) Polar Sci. 6, 252-262.