2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

R5: Extraterrestrial materials

Sat. Sep 14, 2024 9:00 AM - 12:00 PM ES025 (Higashiyama Campus)

Chairperson:Megumi Matsumoto, Daiki Yamamoto, Yusuke Seto, Toru Matsumoto(Kyoto University)

10:55 AM - 11:10 AM

[R5-07] Reproduction Experiments of Radial Pyroxene Chondrules Using a Gas-jet Levitation System under Reducing Conditions

「発表賞エントリー」

*Kana Watanabe1, Tomoki Nakamura1, Tomoyo Morita1 (1. Tohoku Univ. Sci.)

Keywords:chondrule, pyroxene, levitation experiment, partition coefficients, reduction reaction

【目的】
 
コンドリュールは隕石中に含まれる数μm~数cmの球状粒子である(図1(a))。この粒子は主にかんらん石や輝石等のケイ酸塩結晶と、その隙間のメソスタシスガラス・鉄ニッケル合金や鉄硫化物から成り、特有の結晶形態を示す。コンドリュールは、原始太陽系星雲中で前駆物質が加熱され、溶融・冷却を経て形成された。コンドリュールの結晶形態・化学/同位体組成等は形成時の何らかの条件を反映しているが(e.g., Jones, 2012)、それら条件は未解明である。本研究では、輝石が放射状に伸長したコンドリュール(Radial Pyroxene (RP))の浮遊結晶化実験を行った。実験でRPコンドリュールの結晶形態および結晶とガラスの化学組成を再現し、形成時の条件を制約することを目指した。

【手法】 
 本研究ではガスジェット浮遊装置を用いた。この装置では、出発物質をArガス又はAr-Hガスで浮遊させ、CO2レーザーを照射して加熱・冷却を行う。酸化還元度を制御したチャンバーを用い、原始太陽系星雲中と同等の酸素フガシティ下(Villeneuve et al., 2015)で実験を行った。まず浮遊状態の出発物質を約1900℃程度で全溶融させ、冷却した。冷却途中の任意の温度でseedingを行いメルトを結晶化させた。Seedingとは、星雲中のダストを想定した粉末をメルトに衝突させる操作である(Nagashima et al., 2008)。その後seedingした温度で一定時間(6~7200秒間)温度保持し、急冷した。出発物質には、天然RPコンドリュールの主要元素の酸化物粉末(Na2O, MgO, Al2O3, SiO2, CaO, FeO)を混合させ、平均的な天然物のバルク組成(Dodd, 1978; Lux et al.,1981; Nagahara, 1981)となるよう調合したものを用いた。
 さらに、計31個の実験合成試料と計14個の天然RPコンドリュールについて、FE-SEM/EDS、FE-EPMA/WDSによる観察・分析を行った。使用したコンドライト隕石(H3.2, LL3.2, CO3.0)は国立極地研究所からの提供を受けた。

【結果】
 浮遊状態のメルトにseed粉末が接触すると、接触点から即座に結晶が成長した。実験合成試料には、試料表面上の数点から放射状に伸長した低カルシウム輝石が確認された(図1(b))。この放射状輝石は、天然のRPコンドリュールの典型的な特徴(Gooding & Keil, 1981)と一致していた。また結晶化後の温度保持時間が500秒以上と長い試料にのみ、メソスタシスガラス中に金属鉄の粒子が見られ、天然RPコンドリュールにも類似した鉄ニッケル合金の粒子や鉄硫化物の粒子が確認された(図1(c), (d))。輝石結晶とメソスタシスガラス間の鉄分配係数DFe( DFe=Fe mol%pyroxene/Fe mol%mesostasis)について、天然RPコンドリュールのDFeの平均は2.7と非常に高く、メソスタシスガラスよりも結晶の方がはるかに鉄に富んでいた。それに対し実験試料では、結晶化後の温度保持時間が150秒以下と短い時、低いDFeを示した(平均0.4)。一方で温度保持時間が1000秒以上と長い場合DFeは1に近付き、いくつかの実験試料では1を超えていた。本結果から、結晶化後の温度保持時間が長い試料が、天然のRPコンドリュールに近いDFeを示すことが確認された。

【考察】
 本結果は、温度保持時間が長い実験試料と天然RPコンドリュールが同じ条件を経たことを示している。温度保持時間が長い実験試料のメソスタシスガラスには、金属鉄の粒子が晶出しており、これら粒子は温度保持時間が短い試料中には確認されなかった。出発物質中の鉄はFeOとして存在するため、この結果は結晶成長後に残液中(固化後メソスタシスガラスになる)に溶けたFeOが還元され、金属鉄となって晶出したことを示している。残液中のFeOが還元され金属鉄中に取り込まれると、残液中のFeOが取り除かれFeO濃度が低下する。その結果輝石結晶に対して残液中のFeO濃度が低くなり、DFeが高くなったと考えられる。天然RPコンドリュールの形成時にも同様の反応が起こった可能性がある。天然RPコンドリュールのメソスタシスガラス中には鉄ニッケル合金の粒子・鉄硫化物の粒子が確認されることから、輝石結晶の成長後に残液中に溶けたFeOが還元または硫化されて残液中からFeOが取り除かれ、高いDFeを示すと考えられる。これはRPコンドリュールのDFeが、コンドリュール形成時の酸化還元度・冷却速度を制約する指標となることを示す成果である。なお本成果はWatanabe et al. (2024), The Astrophysical Journalで発表済みである。
R5-07