2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

R5: Extraterrestrial materials

Sat. Sep 14, 2024 9:00 AM - 12:00 PM ES025 (Higashiyama Campus)

Chairperson:Megumi Matsumoto, Daiki Yamamoto, Yusuke Seto, Toru Matsumoto(Kyoto University)

11:10 AM - 11:25 AM

[R5-08] Stratigraphy of poikilitic shergottite parent body(ies) as deduced from their textural and mineral compositional diversities

「発表賞エントリー」

*Sojiro Yamazaki1, Akira Yamaguchi2, Takashi Mikouchi3 (1. Fac. Sci., Univ. Tokyo, 2. Natl. Inst. Polar Res., 3. Univ. Museum, Univ. Tokyo)

Keywords:Poikilitic shergottite, Olivine, Pyroxene, Intrusion, Cooling rate

はじめに:シャーゴッタイトは岩石学的特徴から、カンラン石フィリック、玄武岩質、ポイキリティックの3タイプに分類され、それぞれ異なる分化度のマグマ、もしくは結晶化過程を経て形成されたと考えられている (e.g., Udry+ 2020)。これらの中で、ポイキリティック・シャーゴッタイト(P-She)は、数mmサイズの輝石オイコクリストが、小さなカンラン石チャダクリストを取り囲む特徴的なポイキリティック組織を示す。輝石オイコクリストはコアが低Ca輝石で、ピジョン輝石を経て普通輝石のリム部分からなり、最初に深部マグマ溜まりで形成され、最終的にこれらを含むマグマが地表付近に上昇・貫入し、固化することでP-Sheが形成されたと考えられている(e.g., Rahib+ 2019)。しかし、地表付近でのマグマ最終結晶化過程についてはあまり議論されていない。本研究では、近年、南極やサハラ砂漠で数多くのP-Sheが発見され、岩石学・地球化学的な多様性が明らかになってきていることから、これらP-Sheの岩石組織・鉱物組成を分析・比較することで、火星地殻内に普遍的に存在していると考えられるP-She母岩体の最終結晶化過程に制約を与えることを試みた。
試料及び分析手法:本研究では、4個のenriched P-She (RBT 04261, NWA 4468, NWA 13227, NWA 14127)、5個のintermediate P-She (NWA 12241, NWA 13250, NWA 13366, NWA 13369, ALH 77005)、現在唯一のdepleted P-SheであるAsuka 12325の薄片試料について、EPMA (JEOL JXA-8900L, JXA-8200)で元素マップの取得及び鉱物組成の分析を行なった。各鉱物相のモード組成と、非ポイキリティック組織中のカンラン石の結晶サイズ分布(CSD)分析については、取得した元素マップからImage Jを用いて解析した。
結果:合計9つのP-Sheの分析の結果、輝石の鉱物組成については試料間に大きな差は見られず、コア部分がEn69±8Wo12±7、リム部分はEn51±5Wo35±5程度であった。マスケリナイト(斜長石衝撃変成ガラス)についても、Ab35Or1-Ab55Or5と類似した組成を示すものが多かったが、NWA 14127はAb35Or1-Ab45Or10とKに富むトレンドを示した。マスケリナイトは、ポイキリティック組織の外側の非ポイキリティック組織にのみ存在するが、そのモード組成は、斜長石が結晶化後期に晶出することから、マグマ最終結晶化時の他の鉱物の集積度合いを反映していると考えられる。試料の浅部貫入時の冷却速度については、輝石オイコクリストのオージャイトリムに見られるTi拡散プロファイルから、輝石温度計より初期温度を1200 ℃として冷却速度を見積もった(Cherniak 2012)。その結果、NWA 12241など、冷却速度が約0.17℃/年、CSD分析によるマグマの滞留時間が約120日と、比較的ゆっくり冷却されたと考えられる試料ほどカンラン石組成幅がFo62-70と狭く、一方でNWA 13227やNWA 14127など冷却速度が約1℃/年、マグマの滞留時間が約40日と比較的速く冷却されたとされる試料についてはFo40-70とカンラン石の組成幅が広くなっていた。また、マグマの冷却速度と非ポイキリティック組織中のマスケリナイトのモード組成には負の相関が見られた。P-Sheの貫入マグマ岩体の熱進化を、ポイキリティック組織の輝石組成から初期温度を1200 ℃、固化温度を1000 ℃とし、熱拡散方程式を用いて見積もった結果、約500 m の母岩体サイズが得られた。
考察と結論:冷却速度が比較的遅いと考えられるNWA 12241については、非ポイキリティック組織でのカンラン石の結晶サイズが比較的大きく、Mg-Fe組成幅も狭いことから、深部マグマ溜まりから地表付近に貫入したマグマが、岩体の中心付近で他の鉱物を集積させながらゆっくり冷却されて形成されたと考えられる。一方で、冷却速度が比較的速いと推定されるNWA 14127やNWA 13227については、カンラン石の結晶サイズが比較的小さく、組成幅も広いことから、貫入マグマが貫入岩体の岩壁に近い部分で集積が進む前に急冷されて固化した可能性がある。以上のように、本研究から、P-Sheの岩石組織・鉱物組成に多様性を与える要因は、同一貫入岩体内での冷却速度及び、集積深度の違いであることが示唆され、ポイキリティック組織を含む、同様の層状構造を持つP-She母岩体が、火星地殻内に普遍的に存在している可能性があることが明らかになった。