11:25 〜 11:40
[R5-09] 火星隕石Asuka 12325のTi-Crに富むスピネルの高圧相転移
キーワード:クロマイト、火星隕石、衝撃変成作用、高圧相転移
高圧相の研究は隕石の衝撃変成の理解や地球深部の状態を探る上で重要である。隕石ではこれまで様々な鉱物の高圧相が発見されているが、本研究ではTiやCrに富むスピネルであるクロマイト-ウルボスピネル固溶体の相転移に着目する。クロマイトには約16~18 GPa以上で高圧相が2種類存在し、約1300 °C以上の高温側ではxieite(空間群Cmcm)、それ以下ではchenmingite(空間群Pnma)が安定である(Ma et al. 2019)。ウルボスピネルは4~16 GPaではFeTiO3とFeOに分解するが、それ以上の高圧ではtschaunerite(空間群Cmcm)になることが知られている(Ma et al. 2021)。いずれも火星隕石中の衝撃溶融領域の近くで発見・記載された典型的な高温高圧鉱物である。近年、火星隕石Asuka 12325 (A 12325)を観察していたところ、TiとCrに富むスピネル中に、イルメナイトの離溶とは異なる、高圧相転移と見られるラメラ状の構造が見られた(Takenouchi et al. 2023)。今回はその詳細な観察と相同定を行い、TiとCrに富むスピネルの高圧相転移条件について報告する。
観察した試料は国立極地研究所より貸与されたA 12325の薄片と厚片1枚ずつを用いた。走査型電子顕微鏡(SEM)による観察と電子後方散乱回折(EBSD)分析は国立極地研究所のSEM(JEOL JSM-7100F)を用いた。また、元素組成分析では国立極地研究所の電子プローブマイクロアナライザー(EPMA、JXA-8200)を用いた。鉄の価数測定のために高エネルギー加速器研究機構BL-4Aにて放射光X線吸収端近傍構造(SR-XANES)分析を行った。集束イオンビーム(FIB)による切り出しと透過型電子顕微鏡(TEM)による観察には、京都大学大院理学研究科のFIB-SEM(Helios NanoLab G3 CX)とTEM(JEM-2100F)を用いた。
EPMAによる組成分析では、A 12325中のスピネルはCr2O3量が18〜57 wt%、TiO2が1〜18 wt%と幅広い組成を示した。各分析点では化学量論数が酸素24に対して0.5ほどずれていたため、FeOの一部をFe2O3に置き換えることで化学量論数を合わせる操作を行った。その結果、最もTiに富むスピネルにおいて約8 wt%ほどのFe2O3が含まれる計算となり、その平均的な組成は(Mg0.18Fe2+0.80Mn0.02)Σ1(Cr0.66Al0.21Fe2+0.45Fe3+0.22Ti0.46)Σ2O4であった。観察したスピネルは命名規則に従うとすべてTiに富むクロマイトであった。XANESによる鉄の価数測定では、今のところ有意な三価鉄は検出できていないが、配位数の差による強度変化も考慮した詳細な解析が必要と考えられる。 SEM観察では、Tiに富むクロマイトにのみラメラ状の構造が見られた。ラメラは衝撃溶融脈の分布とは関連せず、脈から離れた場所でも広く観察された。EBSD分析によると、ラメラ部はクロマイトとは異なりchenmingiteに近い菊池パターンを示した。FIBで切り出してTEMで観察したところ、明瞭なラメラ状の組織が確認され、その回折像は消滅則を考慮するとやはりchenmingiteで指数付けされた。ラメラは特定の結晶方位に沿って形成しており、(111)chr//(1-11)chen等の方位関係が見られた。ラメラの内部は結晶方位の概ね揃った細粒な粒子の集合であったが、一部の回折スポットの強度が弱くなる雁行脈状の領域がラメラ内部に存在していた。
A 12325はこれまでの研究で、衝撃圧力が17-22 GPa程度と推定されている。その場合、溶融脈から離れた場所での上昇温度はおよそ 250 °Cに満たない。つまり、今回のTiに富むchenmingiteは17-22 GPa、250 °C 以下という条件で相転移していた。従来chenmingiteへの相転移は速度論的な制約で衝撃溶融脈から数ミクロン離れた高温領域(〜1350 °C)でのみ見つかっていたが、Tiが入ることで相転移が容易に起こせる可能性が示唆された。
通常高圧鉱物から見積もられる衝撃圧力は下限値のみである。今回のTiに富むchenmingiteは、相転移の速度論的な制約が弱く、よりピーク圧力に近い衝撃変成条件を反映できる可能性がある。また、衝撃溶融脈の様な局所的な組織がなくても衝撃圧を見積もることが可能なため、試料の少ない火星隕石の衝撃変成度を見積もる指標として非常に有用である。よりTiに富む場合(Crに富むウルボスピネル)でも同様の高圧相転移が見られるかは今のところ不明だが、今後化学組成と高圧相転移条件の関係を明らかにしていく。
観察した試料は国立極地研究所より貸与されたA 12325の薄片と厚片1枚ずつを用いた。走査型電子顕微鏡(SEM)による観察と電子後方散乱回折(EBSD)分析は国立極地研究所のSEM(JEOL JSM-7100F)を用いた。また、元素組成分析では国立極地研究所の電子プローブマイクロアナライザー(EPMA、JXA-8200)を用いた。鉄の価数測定のために高エネルギー加速器研究機構BL-4Aにて放射光X線吸収端近傍構造(SR-XANES)分析を行った。集束イオンビーム(FIB)による切り出しと透過型電子顕微鏡(TEM)による観察には、京都大学大院理学研究科のFIB-SEM(Helios NanoLab G3 CX)とTEM(JEM-2100F)を用いた。
EPMAによる組成分析では、A 12325中のスピネルはCr2O3量が18〜57 wt%、TiO2が1〜18 wt%と幅広い組成を示した。各分析点では化学量論数が酸素24に対して0.5ほどずれていたため、FeOの一部をFe2O3に置き換えることで化学量論数を合わせる操作を行った。その結果、最もTiに富むスピネルにおいて約8 wt%ほどのFe2O3が含まれる計算となり、その平均的な組成は(Mg0.18Fe2+0.80Mn0.02)Σ1(Cr0.66Al0.21Fe2+0.45Fe3+0.22Ti0.46)Σ2O4であった。観察したスピネルは命名規則に従うとすべてTiに富むクロマイトであった。XANESによる鉄の価数測定では、今のところ有意な三価鉄は検出できていないが、配位数の差による強度変化も考慮した詳細な解析が必要と考えられる。 SEM観察では、Tiに富むクロマイトにのみラメラ状の構造が見られた。ラメラは衝撃溶融脈の分布とは関連せず、脈から離れた場所でも広く観察された。EBSD分析によると、ラメラ部はクロマイトとは異なりchenmingiteに近い菊池パターンを示した。FIBで切り出してTEMで観察したところ、明瞭なラメラ状の組織が確認され、その回折像は消滅則を考慮するとやはりchenmingiteで指数付けされた。ラメラは特定の結晶方位に沿って形成しており、(111)chr//(1-11)chen等の方位関係が見られた。ラメラの内部は結晶方位の概ね揃った細粒な粒子の集合であったが、一部の回折スポットの強度が弱くなる雁行脈状の領域がラメラ内部に存在していた。
A 12325はこれまでの研究で、衝撃圧力が17-22 GPa程度と推定されている。その場合、溶融脈から離れた場所での上昇温度はおよそ 250 °Cに満たない。つまり、今回のTiに富むchenmingiteは17-22 GPa、250 °C 以下という条件で相転移していた。従来chenmingiteへの相転移は速度論的な制約で衝撃溶融脈から数ミクロン離れた高温領域(〜1350 °C)でのみ見つかっていたが、Tiが入ることで相転移が容易に起こせる可能性が示唆された。
通常高圧鉱物から見積もられる衝撃圧力は下限値のみである。今回のTiに富むchenmingiteは、相転移の速度論的な制約が弱く、よりピーク圧力に近い衝撃変成条件を反映できる可能性がある。また、衝撃溶融脈の様な局所的な組織がなくても衝撃圧を見積もることが可能なため、試料の少ない火星隕石の衝撃変成度を見積もる指標として非常に有用である。よりTiに富む場合(Crに富むウルボスピネル)でも同様の高圧相転移が見られるかは今のところ不明だが、今後化学組成と高圧相転移条件の関係を明らかにしていく。