一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R5:地球外物質

2024年9月14日(土) 14:00 〜 15:30 ES025 (東山キャンパス)

座長:松本 恵(東北大学)、山本 大貴(九州大学)、瀬戸 雄介(大阪公立大学)、松本 徹(京都大学)

14:00 〜 14:15

[R5-11] たんぽぽ計画によってISSに搭載されたシリカエアロゲルに捕獲されたマイクロメテオロイドの鉱物学的特徴

*野口 高明1、三宅 亮1、藪田 ひかる2、癸生川 陽子3、菅 大暉4、田端 誠5、奥平 恭子6、山岸 明彦7、矢野 創8 (1. 京都大学・院理、2. 広島大学・院先進理工、3. 東京工業大学・院理、4. 高輝度光科学研究センター 、5. 千葉大学・院理、6. 会津大学・コンピュータ理工、7. 東京薬科大・生命科学、8. 宇宙航空研究開発機構)

キーワード:マイクロメテオロイド、たんぽぽ計画、国際宇宙ステーション、輝石

はじめに:地球低軌道には2〜4万t/yのメテオロイド(惑星間空間を移動している天然の固体物質)が到達している[1]。一方,南極宇宙塵からの推算降下率は3~5千t/yであり[2],大部分のメテオロイドは大気圏突入時に蒸発すると推定される。このため,大気圏突入前のメテオロイド研究は重要である。メテオロイドは,回収可能人工衛星表面の衝突痕残留物[3,4],宇宙空間に曝露したシリカエアロゲル中の捕獲粒子[5,6]として捕集できる。本発表では,JAXAが2015–2019年に国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」船外プラットフォームで実施した「たんぽぽ」計画のうち、2016~2017年に反地球面で曝露した超低密度シリカエアロゲルから摘出したメテオロイドについて報告する。

試料と実験方法:メテオロイド超高速衝突時に形成された細長い穴(衝突トラック)を含むエアロゲルをJAXA/ISASの初期分析設備の高清浄環境にて同定,計測,摘出した(試料ID: SD2A0000T)。この衝突トラックは全長約8mmで,球根状部分から直線状トラックが2本伸び、終端に残留粒子が捕獲されていた。九大にてスライドグラス2枚で本試料を挟み圧縮し,終端粒子がエアロゲル表面に現れる直前まで超音波切削し,金板に圧入した。終端粒子からは,(走査)透過電子顕微鏡((S)TEM)観察および走査透過X線顕微鏡を使ったX線吸収端微細構造(STXM-XANES)分析試料を,京大のThermo Fisher Helios NanoLab G3 CX集束イオンビーム装置で切り出した。(S)TEMは九大のThermo Fisher Tecnai G2-F20を用いた。STXM-XANES分析はKEK-PFのBL-13で行った。

結果と議論:SD2A0000Tの終端粒子1と2(TP1と2)の大きさはそれぞれ,約10×6×5 µm,約6×5×3 µmであった。TP1と2共にエアロゲルへの侵入方向は丸くなっており,背後側に溶融発泡した粒子由来物質とエアロゲルの混合物が存在していた。共に低Ca単斜輝石の単結晶であり,それぞれEn88.4±0.4とEn89.2±1.8,CaとAlは検出限界以下,0.1–0.2 wt.% Cr2O3であった。STXM-XANES分析では,低Ca単斜輝石に特徴的なO-, Mg-, Fe-XANESスペクトルが得られた。ISS船外曝露した別のエアロゲルから終端粒子を回収分析した先行研究では,終端粒子中のオリビンと低Ca単斜輝石はFeに富んでいた(Fo64–84,Wo3–4En84–86)[6]。[6]の試料では3酸素同位体比が測定されており,Δ17O (=0.52×δ18O−δ17O)が–2.6~0で,CRコンドライトのタイプII(オリビンや低Ca単斜輝石が<90 Mg#=Mg/(Mg+Fe)×100)コンドルールやWild 2彗星のコンドルール様物体に類似していた[7,8]。本研究と[6]だけでなく,過去の地球低軌道での捕獲メテオロイドのオリビンと低Ca単斜輝石もFeに富む[3:Fo66–83;4:Fo56–71,En63–71;5:Fo29–77]。81P/Wild2彗星から回収されたコンドルール様物体ではタイプI(≧90 Mg#)に比べてタイプIIの比率が高い[9]。試料数はまだ限られるとはいえ,本結果及び先行研究を総合すると、地球低軌道から回収されたメテオロイドでもタイプII類似物質の割合が高いと推定される。黄道光ダストの軌道計算から,地球軌道付近のメテオロイドの9割以上が木星族彗星起源と推定されている[10]。今後,たんぽぽで捕集したメテオロイドの酸素同位体測定を行うことで,上述の理論的推定に物質科学的な裏付けが与えられると期待される。

引用:[1] Love & Brownlee 1994. Science 262, 550. [2] Rojas+ 2021. EPSL 560, 116794. [3] Rietmeijer & Blandord 1988. JGR 93, 11943. [4] Zolensky+ 1994. In: Analysis of Interplanetary Dust, 291. [5] Hörz+ 2000. Icarus 147, 559. [6] Noguchi+ 2011. EPSL 309, 198. [7]Nakamura+ 2008. Science 321, 1664. [8] Tenner+ 2018. In: Chondrules, Chap. 8. [9] Gainsforth et al. (2015) MAPS 50, 976. [10]Nesvorný+ 2010. ApJ 713, 816.