一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R5:地球外物質

2024年9月14日(土) 14:00 〜 15:30 ES025 (東山キャンパス)

座長:松本 恵(東北大学)、山本 大貴(九州大学)、瀬戸 雄介(大阪公立大学)、松本 徹(京都大学)

14:15 〜 14:30

[R5-12] ナトリウムに富むリュウグウ粒子のSTXM分析

*松本 徹1、野口 高明1、荒木 暢2、湯澤 勇人2、三宅 亮1 (1. 京都大学、2. 分子科学研究所)

キーワード:リュウグウ

はじめに:C型小惑星リュウグウの試料は粘土鉱物など水質変成物が主成分である。これらは、リュウグウの母天体において、氷と無水鉱物、そして有機物が化学反応すること(水質変成)によって形成された [e.g., 1,2]。リュウグウの試料には、ナトリウムに富む岩相が見つかっているが[2,3]、詳細な記載は行われていなかった。一方で、著者らはこれまでにリュウグウの試料に地球外物質で観察例がないナトリウム炭酸塩を報告した[4]。ナトリウム炭酸塩は母天体が冷却された段階での0度以下の低温の水環境で形成したと考察された。リュウグウにおける水質変成はこれまで40度程度の温水環境が想定されていたが、従来知られているよりも更に低温領域での小惑星内部の水環境の痕跡が試料に残されている可能性がある。本研究ではナトリウム炭酸塩が含有する化合物種を調べることで、リュウグウの低温水に溶け込んだ物質を理解することを目的とした。
 実験:本研究では、国際公募分析によって配布されたC室から回収されたリュウグウ粒子(C0071)を試料として用いた。粒子をインジウムに固定し、走査型電子顕微鏡を用いた粒子表面の元素マッピングを行なった。そして分析対象とする領域から、集束イオンビーム加工装置を使い、厚さ約150nm、10x5µmの面積をもつ切片を切り出した。この切片に対して、分子科学研究所に設置された走査型透過X線顕微鏡(STXM)を用いて、X線吸収端近傍構造分析(XANES)を行った。STXM測定では、大気暴露で試料輸送を行った。測定は炭素のK吸収端(C-XANES), 窒素のK吸収端(N-XANES)、硫黄のL吸収端(S-XANES)の領域で行った。
 結果と議論:粒子C0071は長径約1.5mmの大きさで、その表面に見られたナトリウムに富む部分から切片を取り出した。粒子の表面の約1µmの深さあたりまでのC-XANESスペクトルでは炭酸塩(290.4eV)のピークが見られ、これは炭酸塩鉱物に対応すると推定される。SEM観察によってNaの濃集が確認されていることからNa炭酸塩である可能性がある。炭酸塩の強いピークが見られた領域から取得したS-XANESでは、170eV付近、182eV付近にピークが見られ、この特徴は硫酸塩化合物に類似する[5]。加えて、炭酸塩の強いピークが見られた領域のN-XANESスペクトルにおいては、401eV付近と405eV付近にピークが現れた。この組み合わせは硝酸塩化合物に類似している[6]。 リュウグウ試料には地球上での変質の産物であるカルシウム硫酸塩が報告されている[7]。しかし、本試料は窒素置換で継続的に保管されており、大気暴露された時間はおよそ2分程度であることから、地球での風化・変質の影響は非常に少ないと考えられる。 そのため硫酸塩のシグナルはリュウグウ試料に元々含まれていた物質に由来すると推定される。先行研究のリュウグウ試料の熱水抽出実験によって、硫酸イオンと硝酸イオンが報告されている[8]。本分析で確認されたピークが硫酸塩・硝酸塩化合物に対応するならば、これらは、水への可溶性の高い成分としてリュウグウの母天体を流れた水に溶け込んでおり、炭酸塩鉱物とともに沈殿した物質であると推測される。今後、切片に含まれる鉱物の詳細を明らかにするため、透過型電子顕微鏡によって切片を観察する予定である。
 引用:[1] Yokoyama et al. 2022 Science 379 7850 [2] Nakamura et al. 2022 Science 379: 8671 [3] Yamaguchi et al, 2023 Nature Astronomy 7:398-405 [4] 松本, 他, 2024 JpGU abstract#PPS08-02 [5] Sarret et al. 1999 Geochimica et Cosmochimica Acta 63 22 3737-3779 [6] Leinweber et al. 2007 Journal of Synchrotron Radiation 14.6 500-511 [7] Imae et al. 2024 Meteorite and Planetary Science. doi: org/10.1111/maps.14178 [8] Yoshimura et al. 2023 Nature Communications 14:5284