14:30 〜 14:45
[R5-13] 小惑星リュウグウ試料およびCIコンドライトに見られる非晶質 含水・含ナトリウム マグネシウム・リン酸塩の重要性
キーワード:Mgリン酸塩、小惑星リュウグウ、CIコンドライト、水質変成、小惑星ベンヌ
はじめに:JAXA小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウ試料が、鉱物学的・化学的にCIコンドライトとほぼ同じであるという発見は、初期太陽系におけるCIコンドライトの重要性を再認識させた。リュウグウ試料やCIコンドライトなどの「CIコンドライト的試料」は、母天体で強い水質変成を受け、Mg-Fe層状ケイ酸塩や炭酸塩・磁鉄鉱・磁硫鉄鉱などの変質鉱物から成る。これらの鉱物は、水質変成の度合いに応じて、存在量や化学組成が異なることが議論されているが、本研究では、微小量しか存在しないものの、その存在の重要性が示唆されるMgリン酸塩についてリュウグウ試料とCIコンドライトの両方において詳細な分析を行ったので、その結果を報告する。
試料と分析手法:リュウグウ試料とCIコンドライト(OrgueilとIvuna)の研磨片を東京大学のFE-EPMA(JEOL JXA-8530F)で分析した。Mgリン酸塩については、東京大学地殻化学研究施設で顕微ラマン分光を行った。Orgueil切片中のMgリン酸塩については、0.1 mm以下の粒子を研磨片より分離して、XRDでの分析も行った(東北大Rigaku XtaLAB Synergy-S)。
結果と考察:リュウグウ試料では、Mgリン酸塩の粒子は最大で0.15 x 0.1 mmの不定形で、0.4 x 0.3 mmに達するクラスターを形成しているものも見られたが、多くの場合は、0.1 mm以下の微小な粒子として少量のみ存在していた(全体での存在量は0.1 vol%以下で、C0040-01のみMgリン酸塩が約10 vol%)。Mgリン酸塩の特徴的な組織は、劈開状の割れ目で、時には2方向に沿って発達するが、ランダムな方向を持つ細い割れ目も存在した。Mgリン酸塩のEPMA分析でのトータルは通常60-70 wt%であったが、まれに80 wt%を超える粒子も存在した(最大90 wt%:31 MgO、2 Na2O、54 P2O5, wt%)。割れ目が顕著であるほどトータルが低くなる傾向が見られ、元のMgリン酸塩からの水和(脱水?)の程度が様々であることが示唆された。
CIコンドライトでは、Ivuna、Orgueilともに、リュウグウ試料とサイズ、組織、化学組成がよく似たMgリン酸塩を少量ながらも見出すことができた。ただし、地球風化の影響を明瞭に受けており、CI中のMgリン酸塩では、P2O5とNa2Oの含有量が減少するにつれて、SO3(〜24 wt%)、MnO(〜7 wt%)、Niを多く含む傾向が見られた。SとNiの供給源は明らかにFe-Ni硫化物で、Mnは炭酸塩またはイルメナイトからと考えられる。CI中のMgリン酸塩には小さなピット状の穴が見られ、地球での風化によって元素の溶脱が起きたことを支持していた。
CIコンドライト的試料はミリ~サブミリスケールで角レキ化しているが、角レキ岩片の一部には、水質変成の程度が低いものがあり、少量のカンラン石などが残存している。そこで、Mgリン酸塩の存在と水質変成との関連を議論するために、どのような岩片にMgリン酸塩が存在するかを解析した。その結果、リュウグウ試料では、Mgリン酸塩は水質変成度の低い岩片にのみ存在していることが明らかになった。このような岩片では、Mgリン酸塩は、水/岩石比がまだ低い時に、流体から析出する最初のリン酸塩相と考えられ、Fe-Niリン化物と共存することから、低酸素雰囲気で形成したことが示唆された。CIコンドライトのMgリン酸塩も同様の産状であり、カンラン石が存在するあまり水質変成を受けていない岩片に伴っていた。
顕微ラマン分光では、蛍光の影響が強く明確なラマン信号は得られなかったが、ごく弱いラマンピークが見られるMgリン酸塩粒子が存在した。しかし、Orgueilから分離したMgリン酸塩は、XRD分析では非晶質であった。
結論:このように、CIコンドライト的物質の水質変成度の低い岩片には、Mgリン酸塩が少量ながらも普遍的に含まれることが明らかになった。最近、同様のMgリン酸塩はNASA OSIRIS-RExがサンプルリターンした小惑星ベンヌ試料中にも豊富に含まれることが明らかになっている。ベンヌ試料にはカンラン石を含む水質変成度の低い岩片が多いことから、Mgリン酸塩と水質変成の関係は、我々の結果と一致する。これらのMgリン酸塩は、トータルが低いことから含水と考えられ、Naを最大5 wt%近く含むこと、さらに非晶質であることから、正確には「非晶質 含水・含ナトリウム マグネシウム・リン酸塩」である。このようなMgリン酸塩は、これまで認識されていなかった初期太陽系の重要な水のキャリアであり、より多くのCIコンドライト的物質でのMgリン酸塩の捜索、分析が必要と言える。
試料と分析手法:リュウグウ試料とCIコンドライト(OrgueilとIvuna)の研磨片を東京大学のFE-EPMA(JEOL JXA-8530F)で分析した。Mgリン酸塩については、東京大学地殻化学研究施設で顕微ラマン分光を行った。Orgueil切片中のMgリン酸塩については、0.1 mm以下の粒子を研磨片より分離して、XRDでの分析も行った(東北大Rigaku XtaLAB Synergy-S)。
結果と考察:リュウグウ試料では、Mgリン酸塩の粒子は最大で0.15 x 0.1 mmの不定形で、0.4 x 0.3 mmに達するクラスターを形成しているものも見られたが、多くの場合は、0.1 mm以下の微小な粒子として少量のみ存在していた(全体での存在量は0.1 vol%以下で、C0040-01のみMgリン酸塩が約10 vol%)。Mgリン酸塩の特徴的な組織は、劈開状の割れ目で、時には2方向に沿って発達するが、ランダムな方向を持つ細い割れ目も存在した。Mgリン酸塩のEPMA分析でのトータルは通常60-70 wt%であったが、まれに80 wt%を超える粒子も存在した(最大90 wt%:31 MgO、2 Na2O、54 P2O5, wt%)。割れ目が顕著であるほどトータルが低くなる傾向が見られ、元のMgリン酸塩からの水和(脱水?)の程度が様々であることが示唆された。
CIコンドライトでは、Ivuna、Orgueilともに、リュウグウ試料とサイズ、組織、化学組成がよく似たMgリン酸塩を少量ながらも見出すことができた。ただし、地球風化の影響を明瞭に受けており、CI中のMgリン酸塩では、P2O5とNa2Oの含有量が減少するにつれて、SO3(〜24 wt%)、MnO(〜7 wt%)、Niを多く含む傾向が見られた。SとNiの供給源は明らかにFe-Ni硫化物で、Mnは炭酸塩またはイルメナイトからと考えられる。CI中のMgリン酸塩には小さなピット状の穴が見られ、地球での風化によって元素の溶脱が起きたことを支持していた。
CIコンドライト的試料はミリ~サブミリスケールで角レキ化しているが、角レキ岩片の一部には、水質変成の程度が低いものがあり、少量のカンラン石などが残存している。そこで、Mgリン酸塩の存在と水質変成との関連を議論するために、どのような岩片にMgリン酸塩が存在するかを解析した。その結果、リュウグウ試料では、Mgリン酸塩は水質変成度の低い岩片にのみ存在していることが明らかになった。このような岩片では、Mgリン酸塩は、水/岩石比がまだ低い時に、流体から析出する最初のリン酸塩相と考えられ、Fe-Niリン化物と共存することから、低酸素雰囲気で形成したことが示唆された。CIコンドライトのMgリン酸塩も同様の産状であり、カンラン石が存在するあまり水質変成を受けていない岩片に伴っていた。
顕微ラマン分光では、蛍光の影響が強く明確なラマン信号は得られなかったが、ごく弱いラマンピークが見られるMgリン酸塩粒子が存在した。しかし、Orgueilから分離したMgリン酸塩は、XRD分析では非晶質であった。
結論:このように、CIコンドライト的物質の水質変成度の低い岩片には、Mgリン酸塩が少量ながらも普遍的に含まれることが明らかになった。最近、同様のMgリン酸塩はNASA OSIRIS-RExがサンプルリターンした小惑星ベンヌ試料中にも豊富に含まれることが明らかになっている。ベンヌ試料にはカンラン石を含む水質変成度の低い岩片が多いことから、Mgリン酸塩と水質変成の関係は、我々の結果と一致する。これらのMgリン酸塩は、トータルが低いことから含水と考えられ、Naを最大5 wt%近く含むこと、さらに非晶質であることから、正確には「非晶質 含水・含ナトリウム マグネシウム・リン酸塩」である。このようなMgリン酸塩は、これまで認識されていなかった初期太陽系の重要な水のキャリアであり、より多くのCIコンドライト的物質でのMgリン酸塩の捜索、分析が必要と言える。