2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

R5: Extraterrestrial materials

Sat. Sep 14, 2024 2:00 PM - 3:30 PM ES025 (Higashiyama Campus)

Chairperson:Megumi Matsumoto, Daiki Yamamoto, Yusuke Seto, Toru Matsumoto(Kyoto University)

2:45 PM - 3:00 PM

[R5-14] On the relationship between lithological classification and degree of aqueous alteration in Asteroid Ryugu samples

*Minami Masuda1, Takashi Mikouchi2, Hideto Yoshida1, Tomoki Nakamura3, Michael Zolensky4 (1. Univ. Tokyo, Sci., 2. Univ. Tokyo, Univ. Museum, 3. Tohoku Univ., Sci., 4. NASA-JSC)

Keywords:Asteroid Ryugu, CI chondrite, aqueous alteration, brecciation

はじめに
「はやぶさ2」小惑星探査機によって地球に持ち帰られた小惑星リュウグウの試料は、太陽系初期の物質進化を理解する上で貴重な情報源となっている。リュウグウはC型小惑星に分類され、太陽系でも最も始原的な物質の一つとされているCIコンドライトとの鉱物学的・化学的類似性が指摘されている。リュウグウ試料、CIコンドライトともに、岩石学的・鉱物学的には不均質な隕石で、角礫化した岩片で構成されることが特徴である。主な構成鉱物として、層状ケイ酸塩、マグネタイト、磁硫鉄鉱、炭酸塩、リン酸塩、カンラン石などが挙げられる。
リュウグウ母天体は、太陽系の外側の低温領域(約-200℃以下)で形成されたと考えられており、水と二酸化炭素が氷として存在していた可能性が示唆されている。その後、放射性元素の崩壊熱により氷が融解し、天体内部で水-岩石反応が進行した。この過程で、天体内部は強く含水化される一方、表層は比較的弱い含水化を受けたと推測される。さらに、大規模衝突により分裂された小さな岩片が再集積することで現在のリュウグウが形成されたと考えられており、これが角礫化岩片で構成される現在の姿につながっている。
これまでにリュウグウ試料の鉱物組合わせに注目した岩相分類が行われているが、本研究では、各岩相の割合を正確に見積もり、さらに水質変成度との関連に注目することで、リュウグウ母天体における水質変成プロセスの解明を目指した。
試料と分析手法
「はやぶさ2」が採取したチャンバーA(表層物質)とチャンバーC(地下物質を含む)の合23枚のリュウグウ試料研磨片を対象に、FE-EPMA(東大・理・地惑のJEOL JXA-8530F)によるBEI観察と元素マッピングを行った。観察された鉱物組み合わせに基づき、これまでに試料を6つの主要な岩相(I〜VI)と「その他」に分類が行われているが(Mikouchi T.+2022)、各岩相の存在度を元素マップを対象としてAdobe Photoshopで解析した。
結果と考察
分析を行った試料の総面積は46.57 mm2であった。リュウグウ試料全体では、水質変成度の弱い岩相II(23%)、水質変成度の強い岩相III(41%)、IV(18%)が多く観察され、最も水質変成の進んでいない岩相I(0.1%)は非常に稀であった。これは、リュウグウ母天体が中程度からそれ以上に進んだ水質変成を経験した角礫を多く含むことを示している。研磨片のサイズと岩相の関係については、4-5 mm程度の研磨片では複数の岩相が混在する一方、1-2 mm程度の研磨片では単一の主要岩相が観察される傾向が見られた。この結果は、リュウグウを構成する角礫化岩片が主に数mm程度のサイズを主体として存在することを示唆している。
チャンバーAとチャンバーCの試料を比較すると、チャンバーAの試料は岩相III(50%)、IV(30%)が多く、チャンバーCの試料は岩相II(36%)が多い傾向が見られた。また、粗粒の炭酸塩が特徴の岩相V(7.2%)がチャンバーCの研磨片ではほとんど見られなかったことから、岩相Vは岩相IIと共存することが少ないことが推測される。
これらの結果は、リュウグウ母天体内部での不均一な水-岩石反応の痕跡を示していると考えられ、天体内部での水/岩石比の違いによる不均一な水質変成の進行を反映していると考えられる(Nakamura T.+ 2022)。岩片は水/岩石比を基準とすると、水の割合が少ない環境(水/岩石< 0.2)でできた物質と、水の割合が高い環境(0.2 < 水/岩石< 0.9)でできた物質の大きく2種類に分けることができる。前者は天体の表層付近の冷えやすく氷が溶けにくかった環境でできた物質、後者は天体内部の水が豊富な環境でできた物質と推測される。
結論
リュウグウ試料の岩相存在度と水質変成度の関連性から、リュウグウ母天体内部での不均一な水-岩石反応の痕跡が明らかになった。この結果は、C型小惑星の形成・進化過程や、太陽系初期の物質進化を理解する上で重要な知見を提供する。
現在のリュウグウには、リュウグウ母天体の表層と内部の物質が混在しており、これらの岩片を構成する鉱物の多様性は、水との化学反応の際の条件の違いで説明できる。本研究の結果は、リュウグウが地球上で発見される隕石と異なり、地球上での風化を受けていない貴重な試料であることを改めて示している。
今後の課題として、各岩相内のより詳細な鉱物モード組成分析や、CIコンドライトとの定量的比較が挙げられる。特に、CIコンドライトの代表であるOrgueilやIvunaに対しても同様の岩相分け、鉱物モード組成分析を行う必要がある。これらの研究を通じて、リュウグウ母天体における水質変成プロセスのより詳細な理解が期待される。